6Gはなぜ「国家戦略」なのか?

5Gの普及が進む中、次世代通信規格である6Gはすでに各国で研究開発競争の最前線に立っています。6Gは2030年頃の商用化を目標とし、通信速度は5Gの10倍以上、遅延は1/10以下になると見込まれています。単なる速度向上にとどまらず、AIや自動運転、遠隔医療、メタバースなど新たな社会基盤を支える「インフラ」としての性格を持ち、国家の競争力そのものに直結します。

米国は通信インフラを「安全保障」と位置づけ、中国を強く警戒し、標準化の場でも覇権争いを展開しています。欧州もNokiaやEricssonを中心に研究を加速。中国はHuawei・ZTEを軸に大規模な国家プロジェクトを進めています。日本は総務省主導で「Beyond 5G推進コンソーシアム」を立ち上げ、NTTやNEC、富士通などが共同研究を進めていますが、規模やスピードで見れば米中に劣後しているのが現状です。

日本企業は国際競争で生き残れるのか?

日本企業は5Gでは基地局シェアで劣勢に立たされ、国際市場で存在感を失いました。その背景には、端末からクラウドまで統合的に展開する米中企業に対し、分業構造に頼る日本企業の弱さがあります。

ただし、6Gでは「日本ならではの強み」が再評価されています。

  • 光通信技術:NTTはIOWN構想で光信号処理による超低遅延ネットワークを提唱。
  • 半導体製造装置:東京エレクトロンなどが素材・装置分野で国際競争力を保持。
  • センサー・ロボティクス:6Gのユースケースで必須となる分野で優位性を持つ。

標準化の主導権を握るためには、国際的なアライアンス形成が不可欠です。現時点で日本は欧州との連携を強めており、米国との共同研究も進んでいます。

地方の通信格差は6Gで解消されるのか?

5Gでも指摘された課題の一つが「地方格差」です。都市部では高速通信が整備される一方、山間部や離島では依然として4G以下の環境が残ります。6Gの議論では、これを克服するための仕組みが重要視されています。

  • 非地上系ネットワーク(NTN):低軌道衛星やドローンを活用し、山間部や海上にも通信を届ける。
  • エネルギー効率化:6Gでは省電力化が必須となり、地方での維持コストを下げられる可能性がある。
  • 公共投資の必要性:日本の総務省は地方における6Gインフラ整備に補助金を導入する方針を検討。

この動きが実現すれば、教育・医療・産業活動において都市と地方の差は大きく縮まる可能性があります。

私たちの暮らしはどう変わるのか?

6Gが社会に浸透すると、私たちの生活は次のように変わると予測されます。

  1. 医療:遠隔診断がリアルタイムに実現し、地方病院と都市の専門医が常時接続可能に。
  2. モビリティ:自動運転が安定稼働し、物流や公共交通の効率化が進む。
  3. 教育:メタバース空間を使った遠隔授業で、どこに住んでいても均等な教育機会を得られる。
  4. 防災:災害発生時にセンサー網とAIが瞬時に被害状況を把握し、救助活動を支援。

ただし、新しいリスクも想定されます。セキュリティ脅威の増大、個人データのさらなる収集、監視社会化の懸念などです。6Gの利便性とリスクをどう両立するかは、技術だけでなく政策・倫理の課題でもあります。

6Gは「未来の社会インフラ」そのもの

5Gから6Gへの移行は単なる技術進化ではなく、国家戦略・産業構造・私たちの暮らしの全てに関わる大転換です。日本にとっては国際競争での存在感を回復し、地方格差を解消するチャンスでもあります。その一方で、監視やセキュリティなど新しい課題も現れます。

6Gをめぐる競争はすでに始まっています。私たちがその恩恵を受けるためには、技術の進歩を享受するだけでなく、社会的な使い方を議論し、選択していくことが求められます。