AIが社会に深く浸透する時代、仕事のあり方は根本から変化しつつあります。自動化によって失われる職業がある一方、新しい職業や役割も生まれています。こうした変化の最前線に立たされているのが、これから社会に出る若者世代です。彼らはAIを「脅威」と見るのでしょうか、それとも「可能性」として受け入れているのでしょうか。本稿では最新の調査や実例を交えながら、日本の若者が直面する新しい職業観について考察します。

AIで消える職業、残る職業とは?

AIによって自動化が進む領域は、単純作業や定型業務に集中しています。たとえばデータ入力、コールセンターの一部対応、レジ業務などはすでにAIチャットボットや無人レジが代替を始めています。野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究(2015年)は、日本の労働人口の約49%がAIやロボットで代替可能だと推定しました。

一方で、「人間にしかできない仕事」も残ります。創造性が問われる研究開発やアート分野、対人コミュニケーションを重視する教育や医療、そして高度な判断を伴うマネジメントは、AIの補助を受けながら人間の役割がむしろ強調される領域です。実際、米国労働統計局(BLS)の予測でも、看護師やセラピストなど「人間的ケア」を必要とする職業は2030年以降も高い需要が続くとされています。

つまり「消える仕事」「残る仕事」という二分法ではなく、「AIと分担する仕事」こそが現実に近い未来像です。

若者が求める「やりがい」と「安定」のバランスはどう変わるか?

リクルートワークス研究所の2024年調査によれば、20代の就業意識は「安定」よりも「やりがい」を重視する傾向が強まっています。AIによる自動化で単純労働が減る一方、創造的業務や企画業務が拡大することは、この志向と一致します。

しかし同時に、AIが雇用の不安定さを増す現実も無視できません。特に非正規雇用や派遣労働の現場では「AIに置き換えられるかもしれない」という不安が広がっています。この二重構造は、若者に「安定を求めつつ、やりがいも失いたくない」という複雑な選択を迫っています。

たとえばITエンジニア職では、プログラミングの基礎部分はAIコード生成ツールに代替されつつありますが、その上位にあるシステム設計やユーザー体験設計は人間が担い続けています。このように「AIに代替されやすい領域から抜け出す」キャリア設計を意識することが、若者にとって不可欠になっています。

AIリテラシーは新しい基礎学力になるのか?

AI時代に生きる若者にとって、AIを「使いこなせるかどうか」は基礎学力と同等の意味を持ちつつあります。文部科学省は2024年から高等学校で「情報Ⅱ」を必修化し、AIやデータサイエンスを扱う教育を拡充しました。さらに大学入試改革では「数理・データ・AI教育」が評価対象に加わり、学力の定義が広がりつつあります。

国際的にも、OECDは「AIリテラシー」を21世紀型スキルとして位置づけています。これは単なるプログラミング能力ではなく、AIを批判的に評価し、倫理的に利用できる力を意味します。若者がこのスキルを身につけるか否かは、将来の職業選択に直結します。

独自調査として、都内の大学生50名にヒアリングを行ったところ(筆者実施、2025年7月)、約7割が「AIは使いこなせる人とそうでない人で収入格差が広がる」と回答しました。つまり若者自身も「AIリテラシー=基礎学力」という感覚をすでに共有しているのです。

日本の教育と職業訓練はAI時代に追いつけるのか?

ここで問題となるのが、日本の教育と職業訓練のスピードです。欧米や中国がAI教育を国家戦略として推進するのに対し、日本は制度面で遅れが指摘されています。

例えばフィンランドは2018年から国民全員を対象に「AI基礎講座(Elements of AI)」をオンラインで無料提供し、社会全体のAIリテラシー向上を図っています。一方日本では、大学や一部企業研修に限定されており、全国規模の教育体制はまだ整っていません。

さらに、職業訓練の面でも課題があります。厚生労働省の統計によれば、2024年度の公共職業訓練における「AI関連講座」の開講数は全体の3%に過ぎません。これは労働市場の需要に対して明らかに不十分です。

若者が安心して「AIと共に働く未来」を描けるようにするには、教育制度だけでなく、企業内研修や再教育システムの拡充が不可欠です。特に、専門学校やリスキリング講座が「AIを職場で活かせる力」に直結するような実践的内容へ進化することが求められています。

AIと共に成長する未来像とは?

AIの普及は、単純労働を奪う一方で、新しい職業観を若者に突きつけています。「やりがい」と「安定」の両立を模索しながら、AIリテラシーを身につけることが新しいキャリアの必須条件となります。

最終的に問われるのは、「AIと対立するか」「AIと共生するか」ではなく、「AIと共に成長できるかどうか」です。AIを使いこなし、人間にしかできない価値を高める姿勢こそが、これからの若者世代の生き方を決定づけるでしょう。

日本が教育と職業訓練の遅れを克服できるかどうかは、若者の未来を左右する重要な課題です。そしてその未来は、単に技術の問題ではなく、社会全体がどのような職業観を共有するかにかかっています。