電気代が家計を圧迫する現代、「節電」は誰もが実践できる対策のひとつだ。しかし、それは本当に私たちの暮らしを救う抜本的な解決策なのだろうか。クーラーの温度を1度上げたり、照明をLEDに変えたりといった工夫は、確かに短期的な節約効果をもたらす。しかしその一方で、日本のエネルギー構造や自給率の低さが変わらない限り、「節電社会」は根本的な問題解決にはつながらないという指摘もある。

本稿では、家計の観点と国家のエネルギー政策の両面から、「節電社会」が本当に暮らしの未来を支えるのかを考えてみたい。

なぜ電気代はこんなに高くなったのか?

資源高と円安が電気代を押し上げる

日本の電気代が上昇を続けている最大の理由は、燃料価格の高騰と円安だ。日本は電力の約7割を火力発電に依存しており、その燃料である液化天然ガス(LNG)、石炭、石油の多くを海外から輸入している。国際情勢の不安定化やエネルギー争奪戦が続くなか、燃料価格は乱高下を繰り返しており、円安によってその影響がさらに拡大している。

2022年以降のロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、エネルギー価格は世界的に高騰した。日本企業はそのコストを価格転嫁しきれず、結果として家庭向けの電気料金は10年前と比べて平均3〜4割上昇している。

再エネ拡大のコストも家計に上乗せ

もうひとつ見逃せないのが、再生可能エネルギーの「固定価格買取制度(FIT)」による負担だ。再エネの普及は環境面で重要だが、そのコストは「再エネ賦課金」として電気料金に上乗せされている。2025年度の標準家庭における年間負担額は約1万円とされ、今後さらに増加する可能性が高い。

「節電社会」の限界──それだけでは家計は救えない

節電効果は限定的

確かに節電は電気代を抑える手段として有効だ。経済産業省の試算では、家庭での冷暖房や照明の使い方を工夫すれば、年間数千円から1万円程度の節約が可能とされている。しかし、近年の電気料金の上昇幅(年間数万円規模)を考えると、その効果は限定的だ。

また、高齢者や子どもがいる家庭では、健康や安全面からも過度な節電は現実的でない。エアコンを控えた結果、熱中症のリスクが高まるといった事例も報告されており、「節電=正義」とは言い切れない。

節電が“構造問題”を解決するわけではない

もっと重要なのは、いくら節電をしても「エネルギー自給率の低さ」という根本的な構造は変わらないという点だ。日本のエネルギー自給率はわずか12.4%(2022年度)。OECD諸国の平均が70%を超えるなかで、日本は突出して低い水準にある。エネルギーの大半を輸入に頼る構造が続く限り、世界情勢や為替の影響から逃れることはできず、電気代の不安も解消されない。

エネルギー自給率の現実と課題

なぜ日本はエネルギーを自給できないのか

日本がエネルギーを自給できない最大の理由は、国内に化石燃料資源が乏しいことだ。石油や天然ガスの埋蔵量は限られ、開発コストも高いため、輸入に頼らざるを得ない構造となっている。かつて主力だった原子力発電も、東日本大震災以降は稼働停止や再稼働遅れが続き、総発電量に占める比率は2010年の約30%から2022年には6%程度まで低下した。

再エネの拡大も進んではいるが、2022年度の電源構成では太陽光・風力・地熱などを合わせても約13%にとどまる。天候依存性や送電網の整備といった課題が山積しているのが現状だ。

自給率を高めるために必要な三つの柱

エネルギー自給率の向上には、以下の3つの取り組みが欠かせない。

  1. 再生可能エネルギーの飛躍的な拡大
     洋上風力や地熱といったポテンシャルの高い再エネ資源を本格的に活用する必要がある。特に洋上風力は日本近海に大きな余地があるとされ、政府も2040年までに4500万kWの導入を目標に掲げている。
  2. 原子力の再評価と安全性向上
     エネルギー安定供給の観点から、原子力を「ベースロード電源」として再評価する動きも加速している。新型炉の開発や既存原発の安全対策を進め、国民の理解を得ながら再稼働を進めることが課題だ。
  3. 地域分散型エネルギーシステムの構築
     自治体や企業単位でエネルギーを生産・消費する「地産地消モデル」は、自給率向上と災害時のレジリエンス強化に有効だ。太陽光やバイオマスを活用した地域マイクログリッドの普及が鍵となる。

「節電」と「自給率向上」は両輪で考えるべき

節電は“対症療法”、自給率向上は“根治療法”

節電は短期的な支出抑制として重要だが、それだけでは構造的な問題は解決しない。一方、自給率向上は国家戦略レベルの取り組みが必要で、時間もコストもかかる。しかし、この両輪がかみ合って初めて、エネルギーと家計の持続可能性が確保される。

たとえば、住宅の断熱性能を高める「省エネリフォーム」は、節電効果とエネルギー効率の向上を同時に実現する。また、太陽光パネルや蓄電池を備えた「自家消費型住宅」は、家庭レベルでのエネルギー自立を可能にするだけでなく、災害時の備えとしても注目されている。

行動変容と制度改革の両方が必要

個人の節電努力だけでなく、制度面の改革も欠かせない。政府は「GX(グリーントランスフォーメーション)」戦略のもと、2050年カーボンニュートラル実現を掲げているが、その実現には規制緩和や送電網の整備、投資促進策などが不可欠だ。さらに、エネルギー教育や情報公開を通じて、国民一人ひとりがエネルギー政策の当事者として意識を高めることも求められる。

暮らしの未来は「節電社会」から「エネルギー社会」へ

私たちはいま、「節電すれば安心」という幻想から脱却する必要がある。節電はあくまで一時的な応急処置であり、根本解決にはエネルギー自給率を高める抜本的な構造改革が欠かせない。再生可能エネルギーの導入、原子力の再評価、地域分散型エネルギーシステムの構築など、多角的な戦略が家計と暮らしの未来を守る鍵となる。

「節電社会」ではなく、「エネルギーを自ら生み出す社会」へ──。それこそが、家計の不安を解消し、日本が持続可能な未来を描くための本当の道筋なのではないだろうか。