消費税率の変更に「レジ改修で1年かかる」と言われる背景には、日本のIT業界が“変更するほど儲かる構造”で成り立っている現実がある。

高市総理が2026年5月、参議院決算委員会で語った「日本として恥ずかしい」という発言は、多くの国民に衝撃を与えた。

感染症や災害のような緊急時ですら、税率変更に数カ月から1年かかる。
それが先進国・日本の実態だというのである。

しかも問題は、「技術的に不可能」という話ではない。
むしろ、“そういう構造で運営されてきた”ことに本質がある。

日本では長年、「システム改修」が巨大な産業になってきた。
そしてその構造が、社会全体の柔軟性を失わせている。

なぜ税率変更だけで大工事になるのか?

日本のレジシステムは、税率変更を前提に設計されていないケースが非常に多い。

本来、税率とは「設定値」である。
理想的には、管理画面で数字を変更すれば済む。

しかし実際の現場では、そう単純ではない。

レジ、POS、在庫管理、会計ソフト、ECサイト、ポイントシステム、本部サーバー。
これらが複雑につながり、それぞれ個別仕様になっている。

つまり、税率を1つ変えるだけでも、関連システム全体を触る必要が出てくる。しかも日本では、軽減税率によって構造がさらに複雑化した。

「持ち帰りは8%、店内は10%」
「酒類は対象外」
「セット商品は条件付き」

こうした独特の制度設計が、現場の混乱を増幅させてきた。結果として、「税率変更=大規模改修」という文化が定着してしまったのである。

“工数が増えるほど儲かる”構造とは何か?

日本のIT業界では、長年“工数”が利益の源泉になってきた。つまり、「どれだけ効率化したか」よりも、「どれだけ作業が発生したか」で売上が決まる。これは一般の人には見えにくい。しかしシステム開発の現場では、昔からよく知られた構造でもある。

例えば、税率変更対応。

利用者から見れば、「数字を変えるだけ」に見える。
だが実際の見積書には、次のような項目が並ぶ。

  • 要件定義
  • 仕様確認
  • 影響調査
  • テスト
  • 動作検証
  • 店舗別調整
  • 保守対応
  • マニュアル修正

もちろん必要な工程もある。
だが、日本ではこの“改修作業そのもの”がビジネス化してきた。

特に大企業や官公庁では、システムが巨大化しすぎており、「簡単に変更できない状態」が常態化している。

そしてその維持管理に、毎年莫大な費用が流れ続ける。

なぜ日本だけ“レガシー地獄”になったのか?

日本では1990年代から2000年代にかけて、企業ごとの独自システム開発が大量に進んだ。当時はそれが競争力になると考えられていた。しかし結果として、「その会社にしか分からないシステム」が全国に乱立した。

しかも開発会社が変わると、中身が読めない。

古いプログラム言語。
担当者不在。
仕様書も不完全。

こうなると、少し触るだけでも危険になる。現場では実際に、「この機能を変えると何が止まるか分からない」という状況も珍しくない。そのため、変更には慎重にならざるを得ない。

だが問題は、そこに改善インセンティブが働きにくいことである。なぜなら、複雑であるほど保守契約が続くからだ。

DXと言いながら、実態は“改修経済”ではないか?

日本では近年、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が盛んに使われている。しかし現場を見ると、実際には“デジタル化”より“改修”が中心になっているケースも多い。

新しい価値を生むより、既存システムの延命に予算が流れる。企業側も怖いので、根本刷新ができない。結果として、

「古いシステムを直し続ける産業」

が巨大化していく。実際、国内のIT予算の多くは、新規開発より保守運用に消えていると言われる。これは一般消費者には見えない。だが、税率変更だけで数カ月から1年という話が出てくる背景には、こうした構造問題がある。

本当に“技術力不足”だけの問題なのか?

問題の本質は、日本に優秀な技術者がいないことではない。むしろ現場には、非常に優秀なエンジニアが多い。だが、その技術力が“古い仕組みの維持”に吸い込まれている。

しかも多重下請け構造によって、現場技術者ほど発言権が弱い。

上流では仕様変更。
中間では管理。
下流では実装。

責任は分散し、全体最適が見えにくくなる。

その結果、「変更しやすい設計」より、「今動いているものを壊さない」が最優先になる。これは日本社会全体にも似ている。制度疲労が起きても、抜本改革ではなく“その場しのぎ”が繰り返される。

レジ改修問題は、単なるITの話ではない。
日本社会そのものの縮図でもある。

“変更できない国”になれば、危機対応も遅れる

税率変更に半年から1年かかる。

この問題の恐ろしさは、平時だけの話ではないことだ。

もし大規模災害が起きたらどうか。
感染症で生活支援が必要になったらどうか。

食料だけ緊急減税する。
特定地域だけ税率を変更する。

本来、現代国家なら柔軟に対応できるべきである。しかしシステム側が対応できない。

これは単なる不便ではない。
国家の危機対応能力に関わる問題である。

高市総理が「日本として恥ずかしい」と語った背景には、こうした危機感もあるのだろう。

日本ITの問題は“技術”より“構造”にある

日本のIT問題の本質は、技術力不足ではなく、“変更しにくい構造”を放置してきたことにある。もちろん、システム会社だけを悪者にするのは単純すぎる。

発注側にも責任はある。
安易な継ぎ足しを続けた企業文化にも問題はある。だが少なくとも、日本社会が長年、

「複雑化するほど儲かる」

という方向に最適化されてきたのは事実だろう。その結果として、「税率変更に1年」という異常事態が起きている。DXとは、本来“変化に強い社会”を作ることのはずだ。

もし変更するたびに巨大工事になるなら、それはデジタル化ではなく、“デジタル依存の老朽化”なのかもしれない。