2026年7月17日、皇族数の確保に向けた改正皇室典範が参議院本会議で可決され、成立しました。現行の皇室典範が1947年に施行されて以来、実質的な内容を伴う本則改正は初めてです。
今回の改正により、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する制度と、旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎える制度が導入されます。一方、女性天皇や女系天皇を認めるかという皇位継承の根本的な問題は、結論が先送りされました。
皇室典範が79年目に初めて実質改正
現在の皇室典範は、日本国憲法の施行と同じ1947年5月3日に施行されました。天皇や皇族の身分、皇位継承、皇族の結婚、摂政など、皇室制度の基本的なルールを定めています。
これまでにも関連する法整備は行われてきましたが、皇室典範の本則そのものを実質的に変更する改正はありませんでした。そのため今回の改正は、1947年の施行から79年目に行われた初の実質改正と位置付けられます。
2019年の天皇陛下の即位に先立ち、上皇陛下の退位を可能にした際には、皇室典範そのものを恒久的に改正するのではなく、一代限りの特例法が制定されました。今回のように恒久的な制度として皇室典範の本則を変更するのとは性格が異なります。
なぜ皇族数の確保が必要だったのか
皇室が抱えてきた大きな課題が、皇族数の減少です。宮内庁によると、現在の皇室は天皇皇后両陛下、上皇上皇后両陛下と皇族方で構成されていますが、若い世代の皇族は限られています。
改正前の皇室典範では、女性皇族は皇族以外の男性と結婚すると皇族の身分を離れることになっていました。今後も女性皇族の結婚が続けば、公務や宮中行事を担う皇族がさらに減少する可能性があります。
皇族数の減少は、単に人数が少なくなるという問題ではありません。天皇陛下を支える公務、宮中祭祀、国内外の行事への出席、各種団体の名誉総裁などを、限られた皇族が担わなければならなくなります。
女性皇族が結婚後も皇室に残る制度
今回の改正の一つ目の柱は、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持できるようにすることです。これにより、内親王や女王が皇族以外の男性と結婚した後も、皇室の一員として公務を続けることが可能になります。
ただし、女性皇族の配偶者と子どもは、原則として皇族にはなりません。官房長官は、配偶者や子どもが皇族でなくても、女性皇族の公務に同行したり、公的な行事に参加したりすることは可能との見解を示しています。
この制度は皇族数の減少を緩やかにし、公務を担う人数を維持する効果が期待されます。一方で、一つの家庭の中に皇族と民間人が存在することになり、住居、警備、生活費、プライバシーなどの運用上の課題も生じます。
旧宮家の男系男子を養子として迎える制度
二つ目の柱は、1947年に皇籍を離れた旧11宮家の男系男子を、現在の皇族が養子として迎えられるようにする制度です。
対象となるのは、旧11宮家の男系男子のうち、15歳以上で配偶者と子どもがいない人とされています。ただし、実際に誰が対象となるのかについて、宮内庁は現時点で具体的に把握していません。
養子となった本人には皇位継承資格は与えられません。一方、その後に生まれた男系の男子には、皇位継承資格が認められる制度となっています。
ここが今回の改正で最も意見が分かれた部分です。旧宮家の男系男子を皇室に迎えることを、男系継承を維持しながら皇族数を増やす方法として評価する意見がある一方、皇室を離れて約80年になる家系の人を皇族にすることへの疑問も示されました。
世論は本当に二分しているのか
皇室制度をめぐり、「国民世論が二分している」と説明されることがあります。しかし、世論調査を見ると、すべての論点で国民が半数ずつに割れているわけではありません。
毎日新聞が2026年6月に実施した世論調査では、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する案について、賛成が60%、反対が12%でした。女性皇族の身分保持については、比較的広い支持があるといえます。
これに対し、旧宮家出身の男系男子を養子として皇族にする案は、賛成28%、反対32%でした。賛否の差は小さく、判断を示さない人も多いことから、この案については世論が定まっていないと見る方が適切です。
また、同年4月の毎日新聞の世論調査では、女性天皇を認めることへの賛成は61%、反対は9%でした。別の報道でも、女性天皇への賛成が7割を超える調査があるとされています。
したがって、世論全体が単純に二分されているのではありません。女性皇族の身分保持や女性天皇には賛成が多い一方、旧宮家の養子案や女系天皇については意見が分かれているというのが実態です。
女性天皇と女系天皇の違い
皇室制度を考えるうえで、女性天皇と女系天皇は区別する必要があります。
女性天皇とは、女性が天皇に即位することです。日本の歴史には、推古天皇や持統天皇など、8人10代の女性天皇が存在しました。
一方、女系天皇とは、母方を通じて皇統につながる天皇を指します。仮に女性皇族が天皇に即位し、その女性天皇と民間出身の男性との間に生まれた子どもが即位すれば、女系天皇となります。
現行の皇室典範は、皇位継承資格を「皇統に属する男系の男子」に限定しています。そのため、女性皇族には現在、皇位継承資格がありません。
今回の改正は女性皇族が結婚後も皇室に残る制度を導入しましたが、女性皇族に皇位継承資格を与えるものではありません。女性天皇と女系天皇の是非は、改正の対象外となりました。
先送りされた安定的な皇位継承
今回の改正は、皇族数の確保を目的としたものです。しかし、皇位を継承できる人の数を長期的に確保するという問題が、すべて解決したわけではありません。
現在の皇位継承順位は、秋篠宮皇嗣殿下、悠仁親王殿下、常陸宮正仁親王殿下の順です。若い世代の皇位継承資格者は悠仁親王殿下だけであり、将来の皇位継承が一人に集中している状態は変わりません。
旧宮家から養子を迎える制度によって、将来的に男系男子の皇位継承資格者が生まれる可能性はあります。しかし、実際に養子となる意思を持つ人がいるのか、養子縁組が成立するのか、その後に男子が生まれるのかは分かりません。
今回の法律には、皇族数の確保の状況などを踏まえ、必要に応じて30年ごとに制度を見直す規定も設けられました。
しかし、数十年後の見直しを待つ間にも皇族構成は変化します。安定的な皇位継承をどのように実現するのかという問題には、より早い段階で向き合う必要があります。
養子制度は実際に機能するのか
旧宮家の男系男子を養子として迎える制度は、法律が成立しただけでは機能しません。対象となり得る本人が皇族となる意思を持ち、迎える側の皇族との間で養子縁組が成立する必要があります。
宮内庁長官は法律の成立後、対象となる人を何らかの形で確認する考えを示しました。そのうえで、養子縁組では当事者の自由な意思が重要であり、尊重されなければならないと説明しています。
皇族となれば、生活環境や職業、行動の自由、報道との関係は大きく変わります。本人だけでなく、家族や親族にも影響が及ぶため、候補者が制度の利用を希望するとは限りません。
制度を設けたことと、実際に皇族数が増えることは別問題です。養子となる人が現れなければ、今回の改正による皇族数確保の効果は限定的となります。
配偶者と子どもの位置付けも課題
結婚後も皇族として残る女性皇族の配偶者と子どもを、民間人とする制度にも難しい問題があります。
配偶者と子どもは皇族ではありませんが、皇族と同居し、公務に同行する場合があります。その一方で、選挙権や職業選択、経済活動など、一般国民としての権利を持ち続けることになります。
皇族と民間人が同じ家庭で生活する場合、警備費や生活費をどこまで公費で負担するのか、配偶者が企業活動を続けられるのか、子どもの学校生活やプライバシーをどう守るのかなど、詳細な運用が必要です。
法律上の身分を分けるだけでは解決できない問題も多く、今後は宮内庁による具体的な制度設計と、国民への丁寧な説明が求められます。
皇族数確保と皇位継承は別の問題
今回の改正で注意すべきなのは、「皇族数の確保」と「皇位継承資格者の確保」が同じではないことです。
女性皇族が結婚後も皇室に残れば、公務を担う皇族の減少を抑えることができます。しかし、女性皇族自身や、その配偶者、子どもに皇位継承資格が与えられるわけではありません。
旧宮家の男系男子を養子として迎えた場合も、養子本人には皇位継承資格がありません。将来、その家に男系男子が生まれて初めて、新たな皇位継承資格者が生まれることになります。
今回の改正は、目前に迫った皇族数減少への対策としては意味があります。一方、将来にわたり皇位継承を安定させる制度として十分かどうかは、今後の経過を見なければ判断できません。
皇室制度を国民全体で考える契機に
皇室は、日本国憲法で日本国と日本国民統合の象徴とされています。その制度をどのように維持するかは、特定の政党や専門家だけの問題ではありません。
今回の改正は、1947年の皇室典範施行以来、79年目に実現した初の実質改正です。その歴史的な意味は小さくありません。
一方で、女性天皇や女系天皇、皇位継承順位、女性皇族の配偶者と子どもの身分、養子制度の実効性など、重要な課題の多くは残されています。
改正皇室典範の成立は、皇室制度をめぐる議論の終着点ではなく、新しい出発点です。伝統をどのように受け継ぎ、現代社会の中で持続可能な制度を築くのか。国民が事実と制度を理解したうえで、冷静に考え続けることが求められています。
