人手不足が深刻になる日本では、外国人労働者の受け入れが急速に拡大しています。では、企業が求めているのは本当に人材なのか、それとも「安い労働力」なのでしょうか。結論からいえば、外国人就労は社会を維持するために必要ですが、低賃金の仕事を残したまま人だけを補充すれば、日本経済の弱点を固定しかねません。
外国人労働者は日本社会に欠かせない存在になっている
日本の外国人就労は一時的な補助ではなく、製造、建設、介護、外食、物流などを支える社会基盤の一部になっています。
厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、前年より26万8,450人増えました。外国人を雇用する事業所も37万1,215か所に達し、いずれも届出制度が始まって以降の最多を更新しています。
在留資格別では、専門的・技術的分野が約86万6,000人で最も多く、技能実習が約49万9,000人、留学生のアルバイトなどを含む資格外活動が約44万9,000人です。「外国人労働者」と一括りにされますが、研究者や技術者から工場勤務、サービス業のアルバイトまで実態は大きく異なります。
人手不足の現場に集中している
外国人就労が増えている背景には、単なる国際化ではなく、国内で働き手を確保できない産業の増加があります。特定技能制度も、国内人材を確保することが困難な分野で、一定の技能を持つ外国人を受け入れる仕組みとして設けられました。
外国人材への依存が強まりやすい仕事には、共通する特徴があります。
- 早朝、深夜、交代勤務など勤務時間が不規則である
- 身体的な負担や事故の危険が比較的大きい
- 地方勤務が多く、若い日本人を採用しにくい
- 価格競争が激しく、賃金を上げにくい
- 生活に不可欠で、需要を簡単には減らせない
食品工場、宿泊施設、建設現場、農業、介護、外食などは、利用者にとって不可欠でありながら、働く側から見れば必ずしも条件のよい仕事ではありません。外国人就労の拡大は、この矛盾を埋める形で進んでいます。
なぜ企業は「安い労働力」を必要とするのか?
企業が低賃金の働き手を求める最大の理由は、人件費を十分に価格へ転嫁できない事業構造にあります。
企業が利益を確保するには、販売価格を上げるか、生産性を高めるか、原材料費や人件費を抑える必要があります。しかし、値上げすれば顧客が離れ、生産性向上には設備投資が必要になるため、最も手を付けやすい人件費が抑制されやすくなります。
特に中小企業では、大企業からの発注価格、小売店の販売価格、介護報酬のような公的価格など、自社だけでは決められない条件が少なくありません。その結果、「高い賃金を払いたくない」というより、「現在の価格では高い賃金を払えない」という企業も存在します。
安い商品やサービスを求める消費者も構造の一部である
低賃金労働を必要としているのは、企業だけではありません。安い弁当、低価格の外食、翌日配送、割安な宿泊、低負担の介護サービスを求める消費者の選択も、現場の賃金を抑える一因になります。
たとえば商品の値上げには反対しながら、従業員の賃上げを求めることには矛盾があります。企業が人件費を価格へ転嫁できなければ、どこかの段階で働く人が負担を引き受けることになるからです。
「安い労働力が必要」という言葉の背後には、次のような経済の連鎖があります。
- 消費者が安い商品や迅速なサービスを求める
- 発注側が納入価格を抑える
- 受注企業の利益が薄くなる
- 設備投資や賃上げが難しくなる
- 条件の悪い職場から日本人が離れる
- 不足分を外国人労働者で補う
したがって、外国人就労の問題は、外国人を雇う企業だけを批判しても解決しません。価格、商取引、消費行動、社会保障制度を含む日本経済全体の問題として考える必要があります。
外国人は本当に日本人より安く雇われているのか?
制度上は外国人だから低賃金でよいわけではありませんが、在留資格、年齢、勤続年数、職種の違いによって実際の平均賃金には大きな差があります。
特定技能外国人については、日本人が同等の業務に従事する場合と同等以上の報酬を支払うことが制度上求められています。外国人であることだけを理由に、日本人より低い賃金を設定してよい仕組みではありません。
一方、厚生労働省の2024年賃金構造基本統計調査では、外国人労働者全体の月額賃金は平均24万2,700円でした。在留資格別では、専門的・技術的分野が29万2,000円、特定技能が21万1,200円、技能実習が18万2,700円となっています。
平均賃金の差だけでは差別か判断できない
この差をそのまま「同じ仕事をする外国人が日本人より安く使われている証拠」と見るのは正確ではありません。技能実習生や特定技能外国人は平均年齢が若く、勤続年数も短いうえ、もともと賃金水準の低い業種や地域に集中しています。
ただし、制度上の平等と現場の交渉力は別の問題です。言葉や制度に不慣れで、在留資格や転職に制約がある労働者は、未払い残業や不利な契約があっても声を上げにくくなる可能性があります。
企業から見た「安さ」も、基本給だけで決まるわけではありません。
- 採用しても辞めにくいと期待されている
- 夜勤や地方勤務にも応募者が集まりやすい
- 若い労働者を一定数まとめて確保できる
- 寮を用意して職場の近くに住んでもらえる
- 日本人が応募しない仕事を担当してもらえる
つまり、外国人労働者が求められる理由は、賃金額の低さだけではなく、企業側が必要な人数を必要な場所へ配置しやすいことにもあります。そこに弱い立場を利用する発想が混じれば、適正な人材活用ではなく搾取に近づきます。
技能実習から育成就労への転換で何が変わるのか?
新しい育成就労制度は、国際貢献を掲げた技能実習から、人材育成と国内の人手不足対策を正面に据えた制度への転換です。
従来の技能実習制度は、日本の技能を海外へ移転する国際貢献を目的としてきました。しかし実際には、人手不足の産業で労働力を確保する制度として利用されているとの批判が続き、制度の目的と現実にずれが生じていました。
これを見直すため、政府は技能実習制度を廃止し、新たに育成就労制度を設けました。出入国在留管理庁は制度概要や分野別の運用基準を順次公表しており、外国人を原則3年間で特定技能1号の水準まで育成する仕組みが中心になります。
転籍の拡大が企業の姿勢を変える
新制度で重要なのは、一定の条件を満たせば本人の意向による転籍が認められることです。労働者が勤務先を選びやすくなれば、賃金が低く、職場環境の悪い企業は人材を引き留めにくくなります。
これは、外国人を「辞めにくい労働力」として扱ってきた企業には大きな変化です。今後は採用するだけでなく、日本語教育、技能習得、生活支援、昇給、キャリア形成まで含めて、選ばれる職場をつくる必要があります。
ただし、制度を変更するだけで問題が消えるわけではありません。転籍に複雑な条件が設けられたり、労働者が多額の来日費用を負担したりすれば、形式上は転職できても実際には動けない状態が残ります。
外国人就労の拡大は日本人の賃金を下げるのか?
外国人労働者の受け入れが賃金へ与える影響は一律ではなく、受け入れる職種、人数、地域、企業の経営姿勢によって変わります。
人手不足の職場に外国人が加われば、事業の縮小や廃業を防ぎ、地域のサービスを維持できます。外国人がいなければ工場が操業できない、介護施設の定員を減らさざるを得ない、店舗の営業時間を短縮するという地域も増えるでしょう。
一方で、低い労働条件のまま人員を補充できれば、企業が賃上げ、省力化、業務改善を先送りする可能性があります。本来なら賃金を上げなければ採用できない仕事が、外国人の受け入れによって現在の条件のまま維持される場合があるからです。
外国人受け入れが日本人の賃金を押し下げるかどうかは、次の違いによって左右されます。
- 日本人と同等以上の処遇を厳格に守るか
- 人手不足を補うだけでなく生産性向上を進めるか
- 技能や勤続年数に応じて昇給できるか
- 転職や相談の権利が実際に保障されるか
- 低価格を維持するためだけに人数を増やしていないか
同じ仕事に同じ水準の賃金を支払い、能力に応じた昇給を行うなら、外国人の採用は直ちに賃下げ圧力にはなりません。反対に、立場の弱い人を低条件で固定すれば、日本人を含む業界全体の賃金が上がりにくくなります。
「安い労働力」から脱却するには何が必要なのか?
外国人を低コストの補充要員ではなく、技能を持つ生活者として受け入れることが、日本経済の持続性を高める条件です。
第一に必要なのは、取引価格とサービス価格の見直しです。人件費の上昇を発注価格や販売価格に反映できなければ、企業に賃上げを求めても持続しません。
第二に、省力化と業務改善への投資が必要です。人手不足のたびに新しい労働者を追加するのではなく、機械化、デジタル化、不要な業務の削減によって、一人当たりの付加価値を高めなければなりません。
第三に、外国人にも長期的なキャリアを用意する必要があります。来日当初の単純作業から、技能職、現場責任者、教育担当者へ進める道があれば、本人の所得が上がるだけでなく、企業にも技術や経験が蓄積されます。
必要な改革を整理すると、次のようになります。
- 同一業務における賃金と待遇を透明化する
- 技能、経験、日本語能力に応じた昇給制度を設ける
- 悪質な仲介業者や高額な来日費用を排除する
- 住宅、医療、教育、日本語学習を地域で支える
- 価格転嫁と省力化投資を同時に進める
- 外国人を管理職や指導者へ登用する
2025年末の在留外国人数では、特定技能が主要な在留資格の一つとなり、外国人が短期間だけ滞在して帰国するという前提はすでに変わりつつあります。
外国人就労を拡大するなら、雇用政策だけでなく、住宅、学校、医療、防災、地域コミュニティまで含む受け入れ体制が必要です。働く人だけを受け入れ、生活者としての存在を見ない政策は長続きしません。
まとめ
外国人労働者は、日本の人手不足を補い、製造、建設、介護、外食、物流などの現場を支える重要な存在です。2025年10月末には257万人を超え、外国人就労はもはや例外的な雇用ではなくなっています。
しかし、外国人を受け入れるだけでは、日本経済の根本的な問題は解決しません。低価格、低利益、低賃金、人手不足という循環を残したままでは、外国人労働者が新たな低賃金層として組み込まれるだけです。
問われるべきなのは、「外国人を受け入れるか、受け入れないか」という二者択一ではありません。日本人も外国人も、技能を身につけ、経験に応じて所得を高められる経済をつくれるかどうかです。
“安い労働力”を必要とする社会は、働く人の価値を低く見積もることで安さを維持しています。外国人就労の拡大は、その仕組みを延命する手段ではなく、日本の賃金、価格、生産性、働き方を見直す契機にしなければなりません。
