「家を買えば資産が残る」という考え方は、人口減少時代にも通用するのでしょうか。結論からいえば、持ち家そのものが不利になったのではなく、どこに、どのような家を持つかで結果が大きく分かれる時代になりました。本記事では、住宅資産の地域差、空き家、住宅ローン、相続のリスクから、持ち家の新しい判断基準を解説します。
「持ち家神話」は本当に終わったのか?
持ち家神話は終わったのではなく、住宅を買えば一律に資産形成できるという前提が崩れたと考えるべきです。
持ち家には、家賃を払い続けずに自分の住まいを確保できるという大きな利点があります。住宅ローンを完済すれば、老後の住居費を抑えやすくなり、自由に改修できる安心感も得られます。
一方で、住宅を「将来売ればお金に換えられる資産」と考えるなら、立地や建物の状態、市場での需要を無視できません。住み続ける価値と、売却できる価値は、同じ住宅の中にありながら別のものだからです。
住居価値と資産価値は一致しない
住宅の価値は、大きく次の二つに分けられます。
- 長期間、安心して暮らせるという「使用価値」
- 売却や賃貸によって資金を得られる「市場価値」
- 災害や立ち退きの不安を減らす「生活基盤としての価値」
- 子や配偶者に引き継げる「承継財産としての価値」
長年暮らした家には、所有者にとって代えがたい使用価値があります。しかし、買い手が見つからなければ、市場価値は期待したほど残りません。「大切な家」と「高く売れる家」を区別することが、人口減少社会の持ち家判断の出発点です。
人口減少が住宅資産のリスクになる理由
人口だけでなく世帯数も減少に転じると、住宅を必要とする主体が減り、需要の弱い地域から売却や賃貸が難しくなります。
住宅需要を考える際は、人口だけでなく世帯数を見る必要があります。親子4人の世帯が二つの単身世帯に分かれれば、人口が減っても必要な住宅数は直ちには減らないためです。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(令和6年推計)」では、一般世帯総数は2020年の5570万世帯から増え、2030年の5773万世帯でピークを迎えると推計されています。その後は減少に転じ、2050年には5261万世帯になる見通しです。
全国一律ではなく地域ごとに差が広がる
世帯数の減少が意味するのは、すべての住宅価格が同じように下がることではありません。交通、雇用、医療、教育、買い物といった生活機能が集まる地域には、人口減少下でも需要が残る可能性があります。
反対に、日常生活に自動車が欠かせず、公共交通や医療機関の縮小が進む地域では、住宅の買い手が限定されます。これからの住宅市場では、全国平均よりも「その地域で次に誰が買うのか」が重要になります。
将来の需要を見極める際は、次のような地域条件を確認する必要があります。
- 駅や主要道路までの距離と交通手段
- 通勤先となる企業や産業の持続性
- 医療、介護、学校、商業施設の配置
- 自治体の人口・世帯数の将来推計
- 洪水、土砂災害、津波などの災害リスク
現在は便利でも、20年後に同じ生活環境が維持されるとは限りません。住宅購入は建物の選択であると同時に、その地域の将来を選ぶ行為でもあります。
空き家900万戸が示しているものは何か?
空き家の増加は、住宅が所有しているだけで価値を保つ資産ではなく、管理費や処分費を伴う負担にもなり得ることを示しています。
総務省統計局の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年10月1日時点の空き家は900万2000戸で、総住宅数に占める割合は13.8%でした。空き家数、空き家率ともに、この調査で過去最高となっています。
ただし、この数字には入居者を募集している賃貸住宅や売却中の住宅、別荘も含まれます。より注意すべきなのは、賃貸・売却用や二次的住宅を除く空き家が385万6000戸に達している点です。
使わない家にも費用と責任が残る
人が住まなくなった家でも、固定資産税、火災保険、庭木の手入れ、換気、修繕などが必要です。遠方の実家を相続すれば、移動費や見回りの負担も生じ、売却前に家財の処分や測量が必要になる場合もあります。
さらに、2023年12月に施行された改正空家法では、放置すれば特定空家になるおそれのある住宅を、市区町村が「管理不全空家」として指導できるようになりました。指導後も改善せず勧告を受けると、敷地に対する固定資産税などの住宅用地特例が外れる可能性があります。
持ち家が負担へ変わる典型的な流れは、次のようなものです。
- 親が高齢者施設へ移り、実家が空き家になる
- 子どもは遠方に住み、定期的な管理ができない
- 老朽化により、そのままでは売却や賃貸が難しくなる
- 解体費や家財処分費を考えると、売却益が残らない
- 相続人同士で売却や修繕の意見がまとまらない
この問題は、住宅価格が下がることだけではありません。利用予定のない家を所有し続けることで、支出と管理責任が積み上がる点に本当のリスクがあります。
地価上昇でも安心できないのはなぜか?
全国平均の地価が上昇していても、個別の住宅が同じように値上がりするとは限らず、地域と物件の選別はむしろ強まっています。
国土交通省の2025年地価公示では、全国平均の住宅地、商業地、全用途平均がいずれも4年連続で上昇しました。三大都市圏に加え、地方圏でも全体として上昇傾向が確認されています。
しかし、地価公示の全国平均は、保有する住宅の売却価格を保証するものではありません。同じ市内でも駅からの距離、接道条件、災害リスク、周辺施設、土地の形状などによって、買い手の評価は大きく変わります。
「土地があるから売れる」とは限らない
古い戸建てでは、建物を使いたい買い手だけでなく、解体して土地を利用したい買い手も想定されます。その場合、解体費や造成費、境界の確認費用などが売却条件に影響します。
マンションにも別の問題があります。専有部分をきれいに保っていても、建物全体の修繕計画、管理組合の運営、修繕積立金、耐震性などに不安があれば、将来の流通性は低下します。
住宅資産を判断するときは、次の三段階に分けると実態を捉えやすくなります。
- 土地に継続的な需要があるか
- 建物が安全に長く使用できるか
- 売却時の費用を引いても資金が残るか
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、実際の不動産取引価格、地価公示、防災情報、都市計画、周辺施設などを地域別に確認できます。広告の売出価格だけでなく、近隣で成立した取引を見ることが重要です。
住宅ローンは資産形成になるのか?
住宅ローンによる購入は資産形成にもなりますが、返済中は住宅という資産と同時に長期の債務を抱える行為です。
家賃は支払っても何も残らないため、住宅ローンのほうが得だと説明されることがあります。しかし、持ち家にはローン返済以外にも、固定資産税、保険料、管理費、修繕費などがかかります。
住宅を売却しても、残ったローンを完済できなければ自由に手放せません。転勤、離婚、介護、病気、収入減少などによって予定より早く売る場合、購入時の想定が崩れることもあります。
金利だけでなく出口まで考える
住宅金融支援機構は、全期間固定金利型の住宅ローンでは、資金受取時に返済終了までの借入金利と返済額が確定すると説明しています。一方、変動金利型では、市場金利の変化が将来の返済負担に影響する可能性があります。
購入前には、次の条件を変えた複数の試算が必要です。
- 収入が一時的に減った場合の返済余力
- 金利が上昇した場合の返済額
- 教育費や介護費が重なる時期
- 定年前後に残るローン残高
- 10年後や20年後に売却する場合の想定価格
「借りられる金額」と「無理なく返せる金額」は同じではありません。さらに、返せるかどうかだけでなく、必要になったときに売れるかという出口まで含めて判断する必要があります。
持ち家と賃貸はどちらを選ぶべきか?
持ち家と賃貸に絶対的な優劣はなく、居住期間、家族構成、移動可能性、地域の将来性によって適した選択は変わります。
同じ地域に長く住み、老後まで使える間取りを選び、返済後の住居費を抑えたい人には、持ち家が合理的です。住宅を自分の生活に合わせて改修できることも、数字だけでは測れない利点になります。
一方、転職や介護などで移動する可能性が高い人や、将来の世帯構成が定まっていない人には、賃貸の柔軟性が合います。建物の大規模修繕や売却の責任を負わないことも、賃貸が持つ価値です。
購入前に確認したい五つの問い
持ち家を購入するか迷ったときは、値上がり予想より先に、次の問いを検討すると判断しやすくなります。
- その家に少なくとも何年住む予定なのか
- 高齢になっても通院や買い物を続けられるか
- 家族構成が変わっても使える間取りか
- 売却または賃貸に出す場合、需要を見込めるか
- 子どもが相続したいと思える物件か
すべてに肯定的な答えが必要なわけではありません。大切なのは、資産価値が下がっても住み続けることで十分な価値を得られるのか、売却可能性を確保する必要があるのかを明確にすることです。
相続まで考えて初めて住宅資産になる
次の世代が利用、売却、管理できる見通しがなければ、持ち家は資産ではなく処分責任を引き継ぐ財産になりかねません。
法務省によると、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った相続人は、原則としてその日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
相続人が複数いる場合、登記だけでなく、誰が住むのか、売るのか、貸すのか、修繕費を誰が負担するのかを決めなければなりません。所有者が元気なうちに家族で話し合っておくことが、空き家化を防ぐ現実的な対策です。
住宅を将来残す予定なら、少なくとも次の情報を整理しておく必要があります。
- 登記名義、境界、権利関係
- 住宅ローンや担保の有無
- 修繕、点検、改修の履歴
- 売却、賃貸、解体に必要な概算費用
- 相続人の居住意思と管理可能性
住宅の価値は、所有者が亡くなった瞬間に決まるのではありません。日頃の維持管理と情報整理、家族間の合意によって、売却しやすさや引き継ぎやすさが変わります。
まとめ
持ち家神話の問題は、家を買うこと自体ではなく、どの住宅も長期的に価値を保つと信じることにあります。
人口減少と世帯数減少が進む日本では、需要のある地域と、売却が難しい地域の差が広がると考えられます。住宅は暮らしを支える大切な基盤である一方、税金、修繕、ローン、管理、相続の責任を伴う資産です。
これから求められるのは、「持ち家か賃貸か」という単純な二者択一ではありません。住み続ける価値、手放しやすさ、維持費、地域の将来、相続後の扱いを一体として考える視点です。
家は、買った瞬間に資産になるわけではありません。自分の人生に役立ち、必要なときに適切に引き継ぐか処分できて初めて、持ち家は人口減少社会に耐えられる資産になるのです。
主な参考資料
本記事では、住宅と世帯、地価、空き家制度、相続登記に関する次の公的資料を参照しました。
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」(2024年公表、2023年10月1日時点)
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」(2020年国勢調査を基に2020~2050年を推計)
- 国土交通省「令和7年地価公示」(2025年1月1日時点)
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」
- 国土交通省「空家法とは」(改正空家法、2023年12月施行)
- 法務省「相続登記の申請義務化について」(2024年4月1日施行)
- 住宅金融支援機構「長期固定金利住宅ローン【フラット35】」
