働き方が多様化する時代に生まれた問い

「本業だけでは足りないから」「夢を追いながら生活も支えたい」「もっと自分らしく働きたい」──こうした思いから、副業を始める若者が増えている。

とくにZ世代(1990年代後半から2010年代初頭生まれ)は、インターネットとSNSを通じて多様な収入源にアクセスする手段を持っており、副業は当たり前という空気さえある。

だが一方で、「企業にとって都合のよい安価な労働力として使い回されているだけではないか?」「“自由”の名のもとに自己責任を押しつけられていないか?」という冷めた視点もまた根強い。

副業は本当に“自由な選択肢”なのか、それとも“現代的な搾取”の一形態なのか。Z世代のリアルな葛藤を通じて、この問いを深掘りしていく。

1. 副業解禁時代の到来──制度と現実のギャップ

2018年、厚生労働省が「モデル就業規則」を改訂し、企業が副業を容認する流れが加速した。大手企業も相次いで副業を解禁し、“多様な働き方”を推奨するようになった。

だが、この「副業解禁」が必ずしも“自由の象徴”とは言えない現実がある。

副業は“選択”ではなく“必要”?

本業の給与だけでは生活が苦しく、仕方なく副業を始めるという若者は多い。物価上昇、家賃高騰、奨学金返済など、Z世代の生活環境は決して楽ではない。

「副業OKになって助かってる」と語る若者の多くは、“夢をかなえる”というより“生き延びるため”に働いている。副業は「自由」ではなく、「逃げ場」や「補填手段」として機能している側面がある。

2. SNSとスキル経済──個人がブランド化する時代

Z世代の副業には、従来の「コンビニバイト」「ウーバー配達員」といった労働型に加え、「ライター」「動画編集」「デザイン」「物販」「コンサル」など、スキルを活かした“個人事業型”も増えている。

フリーランスという「自由な働き方」への憧れ

SNSでは、副業で月収50万円を稼いだ若者の成功談が拡散され、フォロワー数=信用という構図も生まれている。Z世代にとって、SNSは単なる娯楽ではなく、“仕事の場”であり“営業の場”でもある。

YouTubeやnote、X(旧Twitter)で自己表現しながら案件を獲得するスタイルは、会社という枠を超えた“新しい働き方”として映る。

しかし、この自由は「市場競争」と「成果主義」の世界でもある。バズらなければ仕事は来ず、単価も上がらない。いつでも誰かに代替される不安がつきまとう。

3. 自己責任の罠──保障なき労働の現実

副業の世界では、雇用保険も、傷病手当も、年金の上乗せもないことが多い。報酬の遅延や契約トラブルも自己責任とされがちだ。

「好きなことを仕事にする」ことの落とし穴

副業では「好きなことを仕事に」という言葉がしばしば使われる。だが、それは「どれだけ働いても労働とみなされない」危険をはらんでいる。

たとえば、イラストレーター志望のZ世代が副業で安価な案件を受け続けた結果、業界全体の単価が下がり、生活できるプロが減っていく現象が実際に起きている。

「夢を持って働く人ほど搾取される構造」が副業市場には存在しており、それはまさに“見えにくい搾取”と言える。

4. 働き方の再定義──Z世代の価値観と葛藤

Z世代は、かつての「終身雇用」「年功序列」に魅力を感じない一方で、完全にフリーで生きることにも不安を抱いている。

彼らにとっての理想は、「会社にも属しつつ、個人としても立つ」という“ハイブリッド型キャリア”だ。

安定と自由のあいだで揺れる心

「会社に依存するのはリスク。でも、全部ひとりで背負うのもしんどい」という本音は、Z世代の多くが共有している。

副業は、その中間的な立場を模索する手段でもあるが、会社側にとっては“やる気のある若手を囲い込む手段”にもなり得る。

副業の名のもとに「社員に無償で企画案を出させる」「土日も働かせる」などのグレーな運用が広がれば、それは“搾取の温床”になってしまう。

5. 副業の未来──“自由”を成立させる条件とは?

副業が真に「自由」であるためには、いくつかの条件が不可欠だ。

(1)法制度の整備

現状、副業に関する法制度は曖昧なままだ。最低報酬の基準、業務委託契約の透明性、税金や保険の支援策など、働く個人を守る法的枠組みが必要である。

とくに、プラットフォームを介したギグワーク(配達員やクラウドワーク)では「労働者」なのか「請負業者」なのかの境界が曖昧で、保護の対象外となることが多い。

(2)教育とリテラシーの向上

副業をする若者がすべてビジネスや契約に精通しているわけではない。税務処理、著作権、報酬交渉など、基礎的なマネーリテラシーの教育が学校・大学・社会で広く行われる必要がある。

「好きなことを仕事にする」前に、「好きなことで食べていける仕組み」を学ぶことが、搾取から自由を守る武器になる。

(3)企業側の姿勢の転換

副業を「業務に支障が出る」と一律に禁止する企業ではなく、「副業を通じて社員が成長する」と前向きに捉える企業文化が求められている。

そのうえで、副業を活用してスキルを磨き、本業にも還元するという“好循環”が生まれれば、働き方の自由は実を結ぶ。

“副業社会”でZ世代が描く未来

副業は、Z世代にとって単なる収入手段ではない。それは「自分らしい働き方」「好きなことを仕事にしたい」という願いと、「将来への不安」「生活のための現実」とのはざまで生まれた選択肢だ。

それが自由か、搾取かは、制度・社会・企業・個人のすべてにかかっている。

Z世代が夢を持ち、生活を成り立たせながら、安心して働き続けられる社会──副業という働き方は、その実現への重要な分岐点となるだろう。