2025年5月20日、NHKが衝撃的なニュースを伝えた。世界で確認された詐欺メールのうち、4月の1か月間に日本を標的にしたものが83.6%を占めていたというのだ。これはアメリカのセキュリティー会社「プルーフポイント」の調査によるもので、特に証券会社を装った詐欺メールが急増していると警鐘が鳴らされた。

この報道は、単に「詐欺が増えた」という話にとどまらない。背後には、生成AIの登場によって日本語の壁が完全に崩壊した現実がある。これまで日本語の複雑さや特殊な文法は詐欺メールを見抜く一つの手がかりだったが、いまや人間でも見抜くのが困難なほど自然な日本語がAIで量産されている。世界中の詐欺師が「成功率が高い市場」として日本を標的にする理由は、そこにある。

詐欺メールの83.6%が日本を標的に

プルーフポイントの調査では、2025年4月に世界で検知された詐欺メール約6億件のうち、83.6%が日本のユーザーを狙っていたという。これは世界平均を大きく上回る異常な比率だ。

とりわけ注目されるのは、証券会社を装ったメールだ。
「あなたの口座に不審な取引があります」「本人確認が必要です」といった内容で偽サイトに誘導し、ログインIDやパスワードを盗み取る手口が横行している。
実際、国内の証券会社では、利用者の口座が乗っ取られ、不正な株式取引や暗号資産の購入が行われる被害が急増している。

日本語の壁を破壊した生成AI

プルーフポイントの増田幸美氏はこう指摘している。

「これまでは日本語が大きな防御壁になっていましたが、生成AIやツールの登場で『ことばの壁』がなくなり、日本がねらわれやすくなっています。」

確かに、かつての詐欺メールは不自然な日本語や誤字脱字が多く、すぐに偽物と見抜くことができた。しかし、ChatGPTのような大規模言語モデルは、ビジネス文書レベルの丁寧な敬語や自然な文章を短時間で生成できる。
さらに、SNSや過去のメール履歴から個人情報を収集し、宛名や取引先の名前を正確に差し込んだ“パーソナライズ詐欺”が容易に作成可能になった。

なぜ日本人は狙われやすいのか?

1. 権威に弱い国民性

「銀行」「証券会社」「行政」といった肩書きや機関名を提示されると、多くの人は疑いを持たない。特に高齢者層は、企業や役所からの通知を「正しい」と無条件に信じる傾向が強い。

2. メディアリテラシー不足

日本では「情報の真偽を疑う訓練」が不足している。欧米では学校教育でフェイクニュース対策が行われているが、日本ではまだ十分に根付いていない。

3. 恥の文化

「もし本物の連絡だったら無視するのは失礼」と考える人が多い。こうした“空気”に従う心理が、詐欺師の思う壺となる。

4. 過剰な素直さ

日本人の「他人を疑わない美徳」は、詐欺の前では大きな弱点となる。

AI時代の詐欺は「量と質」で圧倒

生成AIは詐欺メールを以下の点で飛躍的に高度化させた。

  • 自然な日本語の生成
    敬語や時候の挨拶まで完璧に再現可能。
  • 大量生産
    1日で数十万通のメールを作り出すことが可能。
  • 標的型攻撃
    個人名・取引履歴・SNSの投稿をもとに内容をカスタマイズ。

従来は「怪しい日本語」や「不自然な差出人名」が警戒の目印だったが、今では公式メールと見分けるのが難しい。特にスマートフォンの小さな画面では、偽リンクかどうか確認するのが困難だ。

日本は“詐欺先進国”になってしまうのか?

被害の急増は、単なる個人の損失にとどまらず、日本全体の経済的信用や治安イメージを損なう恐れがある。日本人がターゲットとして成功率が高いと認識されれば、海外の犯罪組織はさらに資源を集中させる。これは国家安全保障の観点からも無視できない問題だ。

対策:個人と社会でできること

個人レベルの対策

  1. メールのリンクは直接クリックせず、必ず公式サイトやアプリを通じて確認する。
  2. パスワードを定期的に変更し、同じものを複数サービスで使い回さない。
  3. 二段階認証や生体認証など、多要素認証を設定する。

企業・行政レベルの対策

  • メールに電子署名を導入し、公式かどうかを一目で判別可能にする。
  • 詐欺メールに関するリアルタイム警告をSNSやテレビで発信。
  • 学校や企業研修で「AI時代の詐欺対策教育」を義務化。

「疑う力」を持て

詐欺対策で最も重要なのは、「本当にこれが正しい情報か?」と立ち止まって疑う習慣だ。
日本社会は「信頼」を基盤に成り立っているが、それが裏目に出ている。生成AIの進化は止められない以上、私たち自身が「騙されない力」を身につけるほかない。

NHKが報じた通り、日本は今や世界中の詐欺師から“最大の市場”と見なされている。
AIに騙されない国民力を育てることが、これからの日本の安全保障そのものである。