――アメリカとの制度差から見える「1月解散」の本当の論点
なぜ「予算が通らない=政府閉鎖」ではないのか?
日本では、予算が年度内に成立しなくても、国家機能が停止することはない。
これは多くの人が感覚的に知ってはいるものの、
制度として正確に説明できる人は意外と少ない。
アメリカで頻繁に報じられる「政府閉鎖」と、日本の状況は、
似ているようで根本的に異なる。
なぜ比較対象としてアメリカだけを取り上げるのか。
日本で「予算未成立」の不安が語られるとき、
引き合いに出されるのが、ほぼ例外なくアメリカだからだ。
アメリカ合衆国では、予算は「止まる・動く」を決めるスイッチである
アメリカでは、予算が成立しないと、法的に支出できない。
つなぎ予算(暫定予算)も通らなければ、
行政機関は閉鎖され、公務員は一時帰休となる。
国立公園が閉まり、行政サービスが停止する光景は、
もはやアメリカ政治の風物詩になっている。
予算とは、国家運営そのものをオン・オフする
明確なスイッチなのだ。
日本では、予算は「止血装置付きの設計図」である
一方、日本の予算制度は「止まらない」ことを前提に設計されている。
仮に年度内に本予算が成立しなくても、
行政が完全に停止することは想定されていない。
これは政治の強さというより、
制度設計の思想の違いだ。
なぜ日本では政府が止まらないのか?① 暫定予算という安全弁
日本には「暫定予算」という制度がある。
これは、本予算が成立するまでの間、
最低限の行政運営を続けるための予算だ。
対象は限定的だが、
- 公務員の給与
- 年金・医療などの社会保障
- 国の基本的な機能
は、問題なく継続される。
なぜ日本では政府が止まらないのか?② 予算の自然成立
衆議院で可決された予算案は、参議院が30日以内に議決しなければ自然成立する。
これは、いわゆる「ねじれ国会」対策として設けられた仕組みだ。
予算が完全に宙に浮く事態を、
制度的に防ぐ安全装置と言える。
なぜ日本では政府が止まらないのか?③ 義務的経費の存在
日本の国家支出の多くは「義務的経費」である。
年金、医療費、地方交付税、国債費などは、
政治判断とは切り離して執行される性格を持つ。
そのため、
予算未成立=支出停止
という単純な構図にはならない。
ここまでを見ると「年度内成立は重要ではない」と思えてしまう
制度だけを見れば、年度内成立に失敗しても国家は回る。
この点だけを切り取れば、
「1月に解散しても問題ないではないか」
という疑問は、確かに合理的だ。
しかし、問題はその先にある。
問題① 予算が通ってしまうことで、争点が見えなくなる
1月解散の最大の特徴は「予算が間に合ってしまう」ことだ。
暫定予算も、自然成立もあるため、
技術的には何とかなってしまう。
その結果、
- 何を問うための選挙なのか
- 何を信任したのか
が、極めて曖昧になる。
問題② 選挙で「何について判断したのか」が分からない
予算案はすでに編成済み、選挙後も基本はそのまま執行される。
この構図では、
- 予算への信任なのか
- 政権への信任なのか
- 単なる体制整理なのか
が、国民にとって分かりにくい。
民主主義の手続きとして、
ここに説明の難しさが生まれる。
問題③ 「予算成立=安定」という説明が成立しにくい
日本では、予算が通らなくても不安定とは限らない。
それでも政治の側は、
「年度内成立=安定」という言葉を使いたがる。
だが実際には、
- 暫定予算でも行政は回る
- 自然成立でも制度は動く
このため、
「安定」という言葉が中身を伴わなくなる。
問題④ 現場は「止まらないが、進まない」
最大の影響を受けるのは、現場だ。
省庁や自治体は、
- 予算が確定しない
- 選挙結果が見えない
この間、新規事業や制度改正を進めにくい。
行政は動いているが、
未来に向けた判断ができない。
アメリカ型の危機は起きないが、日本型の不透明さは残る
アメリカでは、予算が通らなければ「危機」が可視化される。
一方、日本では、
- 危機は起きない
- しかし、何が決まったのか分かりにくい
という、別の問題が生じる。
不安定ではないが、不透明。
それが日本型の特徴だ。
1月解散の論点は「通るか」ではなく「何が見えなくなるか」
予算が年度内に成立するかどうかは、最大の論点ではない。
むしろ、
- 予算が通ってしまう制度
- 国家が止まらない設計
があるからこそ、
選挙で何を判断したのかが見えにくくなる
ここに、1月解散の本質的な問題がある。
政治的な賛否ではなく、
制度が生む「説明の難しさ」こそが、
今、冷静に理解されるべき論点だろう。
