若者にとって「財産」の意味は変わったのか?
これまで日本人にとって財産といえば「土地」「預金」「株式」といった有形資産が主流だった。しかし、Z世代やミレニアル世代にとって財産の概念は急速に変化している。スマートフォンやPCを通じて、仮想通貨(暗号資産)やNFT(非代替性トークン)、デジタルアイテムを保有することが、資産形成の新しい選択肢として浮上しているからだ。
「モノ」から「デジタル」へ。この移行は単なる技術革新ではなく、若者の価値観とライフスタイルの変化を反映している。果たしてデジタル資産は若者にとって信頼できる「財産」になり得るのだろうか。
仮想通貨は投機か、それとも資産か?
ビットコインやイーサリアムは、すでに投資対象として多くの若者の間に浸透している。ある調査によると、20代の約15%が暗号資産を保有しており、その割合は株式投資経験者を上回るケースもある。スマホで取引でき、少額から始められる気軽さが背景にある。
一方で、価格変動の激しさは大きなリスクだ。2021年にはビットコインが700万円台まで急騰した後、わずか数か月で半値に落ち込んだ。短期的には投機的な色合いが強く、安定的な「資産」と呼べるのか疑問視する声もある。
しかし、若者にとって「資産=安定」という公式は必ずしも当てはまらない。インフレや円安といった環境変化に直面する中、彼らは「価値が変動するもの」も資産と認識し始めている。つまり、デジタル資産は「危険だがチャンスのある財産」として位置づけられているのだ。
NFTは「所有」の意味を変えるのか?
NFTは、デジタルアートや音楽、ゲームアイテムに唯一性を与える技術として注目を集めた。若者にとっては「所有」の感覚をデジタル空間に持ち込む手段ともいえる。たとえば、人気イラストレーターの作品をNFTとして購入すれば、それは唯一無二の「自分の資産」になる。
ただし、NFT市場は熱狂と冷却を繰り返している。2021年には数千万円単位の取引が話題になったが、その後は急激に取引量が減少した。投機的バブルの側面が強いのも事実だ。
とはいえ、NFTが示したのは「デジタルであっても唯一性が価値を生む」という新しい概念である。若者にとっては、単なる資産形成の手段ではなく、「自己表現と投資の融合」として意味を持ち始めている。
デジタル資産は「財産権」として守られるのか?
デジタル資産が本当に「財産」となるには、法制度や社会的認知が不可欠だ。日本では暗号資産がすでに金融商品取引法や資金決済法の対象となり、一定の法的枠組みが整っている。しかしNFTについては未整備の部分が多く、著作権や所有権の扱いにグレーゾーンが残る。
また、取引所の破綻やハッキングで資産を失うリスクも現実的だ。実際、国内外で数百億円規模の流出事件が繰り返されてきた。若者にとって「財産」とは、銀行口座の残高や不動産登記簿のように社会が保証してくれるものだった。しかし、デジタル資産は自己責任の色合いが強く、法的・制度的な整備が進まなければ安心して「財産」と呼ぶことは難しい。
若者はなぜデジタル資産に惹かれるのか?
リスクが多いにもかかわらず、若者がデジタル資産に惹かれるのはなぜか。その理由は「自由」と「参加感」にある。
- 自由度の高さ:株式や不動産に比べ、デジタル資産は24時間取引可能で、国境を越えて売買できる。就職や勤務地に縛られない生き方を求める若者にフィットする。
- コミュニティ感覚:NFTやDAO(分散型自律組織)を通じて、同じプロジェクトや作品に共感する人々とつながれる。資産形成が単なる「お金儲け」ではなく、文化的な参加でもある。
- 自己表現の手段:NFT作品の保有は、SNSのプロフィールやアイコンに反映されるなど、自分の価値観を示す手段になりうる。
つまり、若者にとってデジタル資産は「資産」であると同時に「アイデンティティの一部」でもあるのだ。
デジタル資産は社会の「格差」を広げるのか?
もう一つの重要な論点は、デジタル資産が格差を是正するのか、それとも拡大するのかという点だ。
一部の若者は、早期に暗号資産やNFTに投資して大きなリターンを得た。しかし、多くの人は価格高騰の波に乗れず、むしろ損失を抱えている。こうした「情報格差」や「タイミング格差」が、新たな不平等を生み出している可能性がある。
また、資産形成のリスクを若者に押し付ける形で社会が放置すれば、失敗した人々の不満が増大するだろう。デジタル資産が未来の財産になるかどうかは、個人の努力だけでなく、社会全体が格差を是正する仕組みを持てるかにかかっている。
デジタル資産は本当に「未来の財産」になるのか?
結論として、デジタル資産は若者にとってすでに「財産の一部」になりつつある。しかし、それは従来型の安定した財産ではなく、「変動性」と「自己責任」を伴う新しい形の財産だ。
重要なのは、若者がデジタル資産を盲信することではなく、リスクと可能性を正しく理解すること。そして、社会がその価値を制度的に認め、保護できるかどうかだ。
デジタル資産は「自由を体現する財産」でもあり、「不安定さを抱えた財産」でもある。若者はその二面性を引き受けながら、新しい経済観を築いていくことになるだろう。