地震はいつ、どこで起きるかを正確に予測できません。だからこそ重要なのは、発生を言い当てようとすることではなく、揺れる前に危険を減らし、揺れている間に身を守り、揺れた後に迷わず動ける状態をつくることです。本記事では、熊本地震と首都圏の地震を手がかりに、命を守るための備えと行動を考えます。
熊本地震と首都圏の揺れは何を示したのか?
2026年に相次いだ地震は、規模や発生地域が異なっても、地震への備えが全国どこでも必要であることを改めて示しました。
震度7を観測した令和8年熊本地震
2026年7月28日午後4時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生しました。気象庁によると、震源の深さは16キロで、熊本県宇城市と氷川町では最大震度7を観測しています。
この地震では、発生直後から体に感じる地震が相次ぎ、気象庁は一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と命名しました。大きな揺れが一度収まっても、損傷した建物や崖の近くでは、その後の地震によって危険が拡大する可能性があります。
熊本地震が突きつけたのは、「大きな地震が終われば安全になる」とは限らない現実です。最初の揺れから身を守るだけでなく、その後の地震、建物の損傷、土砂災害やライフラインの停止まで考える必要があります。
首都圏で感じられた長く続く揺れ
2026年8月23日午前2時、茨城県南部を震源とするマグニチュード5.9の地震が発生しました。気象庁によると、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都の17市区町村で最大震度5弱を観測しています。
この地震では、埼玉県南部、千葉県北西部、東京都23区で長周期地震動階級2が観測されました。長周期地震動とは、揺れが一往復するまでの時間が長い大きな揺れで、高層ビルを大きく、長時間にわたって揺らすことがあります。
気象庁の解説では、長周期地震動階級2は、室内で大きな揺れを感じ、物につかまりたいと感じる状態です。歩くことが難しくなる場合があり、棚の食器や本が落ちたり、キャスター付きの什器が動いたりする可能性もあります。
今回の地震を「震度5弱だったから大きな地震ではない」と片付けるべきではありません。高層階では地上付近とは異なる揺れ方をするため、震度だけでなく、建物の高さや室内の状況に応じた備えが必要です。
地震への向き合い方は「予測」より「被害を減らすこと」が本質である
地震防災の本質は、発生日を予測することではなく、いつ発生しても命を守れる環境と行動を準備しておくことです。
気象庁は、地震の発生時期、場所、規模を精度よく限定して予測することは、現在の科学的知見では難しいと説明しています。SNSなどで流れる「○月○日に大地震が起きる」といった情報に振り回されても、現実の安全性は高まりません。
一方、地震による被害の一部は、事前の対策によって軽減できます。家具を固定する、寝る場所に物を置かない、避難経路を確認するといった行動は、地震の発生日を知らなくても実行できます。
地震への向き合い方は、次の三つの段階に分けると理解しやすくなります。
- 揺れる前に、家の中や地域の危険を減らしておく
- 揺れている間は、移動よりも身の安全を優先する
- 揺れが収まった後は、火災、津波、建物、斜面の危険を確認する
この三段階を普段から意識しておけば、突然の揺れに直面したときの迷いを減らせます。防災とは、恐怖を抱き続けることではなく、緊急時の判断をあらかじめ日常の中に組み込むことなのです。
揺れる前に何を備えておくべきか?
地震への備えでは、非常持ち出し袋を用意する前に、まず家の中でけがをしない環境をつくることが重要です。
家具の固定と配置を最初に見直す
大きな家具や家電は、地震によって転倒するだけでなく、滑るように移動する場合があります。特に高層階では、長周期地震動によって家具が大きく動き、避難経路をふさぐ危険があります。
寝室、居間、廊下を確認するときは、単に家具が倒れるかどうかではなく、倒れた先に人がいるか、出入口がふさがれないかを考えます。固定器具を取り付けられない場合でも、家具の向きや置き場所を変えることで危険を減らせます。
家庭内では、次の順番で確認すると実行しやすくなります。
- 寝ている場所に倒れてくる家具や落下物がないか
- 玄関や部屋の扉を家具がふさぐ可能性がないか
- 食器棚や本棚、テレビなどが固定されているか
- 窓ガラスの近くにベッドや長時間座る場所がないか
- 懐中電灯や靴を暗闇でも取り出せるか
すべてを一度に整える必要はありません。まず寝室と避難経路から見直し、次に日常的に長く過ごす部屋へ広げる方が、現実的な防災対策として継続しやすくなります。
備蓄と連絡方法は生活に合わせて決める
政府は、飲料水や食品などを最低3日分、できれば1週間分備蓄するよう呼びかけています。ただし、備蓄は量だけでなく、停電、断水、ガス停止の状態で実際に使えるかを考えなければなりません。
普段食べている保存可能な食品を少し多めに買い、古いものから消費して補充する方法であれば、特別な非常食だけに頼らず備蓄できます。常備薬、簡易トイレ、携帯電話の充電手段、乳幼児や高齢者に必要な用品も、世帯ごとに内容が異なります。
家族が別々の場所で被災することも想定し、集合場所と安否確認方法を決めておく必要があります。災害用伝言ダイヤル「171」や災害用伝言板は、存在を知るだけでなく、利用方法を家族で共有しておくことが大切です。
揺れている間はどう行動すればよいのか?
強い揺れの最中は、火を消したり外へ逃げたりすることより、落下物や転倒物から自分の頭と体を守る行動を優先します。
緊急地震速報は、強い揺れが来る前に行動するための情報ですが、震源に近い地域では速報が間に合わない場合があります。速報を聞いてから安全な場所を探すのではなく、家庭や職場で「落ちてこない、倒れてこない、移動してこない場所」を普段から確認しておく必要があります。
揺れを感じた場所によって、取るべき行動は変わります。
- 屋内では丈夫な机の下などに入り、頭と体を守る
- 寝室では布団や枕で頭を守り、揺れの最中に歩き回らない
- 高層階では移動する家具から離れ、固定された場所で身を守る
- 屋外では窓ガラス、看板、瓦、ブロック塀から離れる
- 運転中は急ブレーキを避け、周囲を確認しながら安全な場所に停止する
以前は「地震が起きたらすぐに火を消す」と強く意識されていましたが、激しい揺れの中で火元へ移動すれば、転倒ややけどの危険があります。東京消防庁も、火の始末は揺れが収まってから、慌てずに行うよう呼びかけています。
また、揺れに驚いて建物の外へ飛び出すと、ガラスや看板などの落下物に巻き込まれる可能性があります。強い揺れの最中は、無理に移動するよりも、その場で最も安全な空間を見つけることが基本です。
揺れが収まった後は何を確認すべきか?
揺れが収まった後は、余震、火災、津波、建物の損傷、崖崩れなど、自分のいる場所に特有の危険を順番に確認します。
まず自分と家族にけががないかを確認し、安全に行える範囲で火元や出口を確かめます。割れたガラスや落下物が床に散乱している可能性があるため、暗闇の中を素足で歩くことは避けなければなりません。
その後の行動は、次の順番で整理すると判断しやすくなります。
- 自分と周囲の人の安全を確認する
- 火災やガス漏れ、建物の傾きや大きな亀裂を確認する
- テレビ、ラジオ、自治体、気象庁から正確な情報を得る
- 津波、延焼、倒壊、土砂災害の危険があれば避難する
- 安全を確保してから家族の安否確認や近隣への声かけを行う
海岸や川沿いでは、強い揺れ、または弱くても長くゆっくりした揺れを感じた場合、津波警報を待たずに高台や避難ビルへ移動することが原則です。津波は繰り返し到達する可能性があるため、警報や注意報が解除される前に海岸へ戻ってはいけません。
内陸部でも、崖や斜面、石垣、損傷した建物の近くには注意が必要です。大雨によって地盤が緩んでいる地域では、地震後に落石や崖崩れが起きる可能性があるため、揺れが収まったことだけで安全と判断してはいけません。
情報を集めすぎて避難が遅れないようにする
災害時には、SNSで未確認情報や過去の映像が拡散されることがあります。気象庁、自治体、消防、警察などの情報を優先し、出所が分からない投稿だけで行動を決めないことが重要です。
ただし、情報がすべてそろうまで待つことが正しいとは限りません。津波や火災、建物倒壊など目前の危険がある場合は、情報収集を続けるより先に安全な場所へ移動する必要があります。
防災は非常持ち出し袋だけでは完成しない
本当に役立つ地震対策とは、物をそろえることだけでなく、住まい、行動、連絡方法、地域とのつながりを一つの仕組みにすることです。
防災用品を購入すると安心感は得られますが、家具が固定されていなければ、その用品を取り出す前にけがをする可能性があります。避難所の場所を知っていても、途中のブロック塀や狭い道路が通れなければ、予定していた経路を使えません。
少なくとも一度は、昼間だけでなく、夜間や停電時を想定して家の中を確認することが必要です。玄関まで安全に移動できるか、懐中電灯は手の届く場所にあるか、家族が不在のときに誰へ連絡するかを具体的に考えます。
地震への備えは、一度整えれば終わりではありません。家族構成、家具の配置、勤務先、通学先、健康状態が変われば、必要な備蓄や避難方法も変わるため、定期的な見直しが求められます。
まとめ
自然災害に向き合うとは、地震を恐れ続けることではなく、突然の揺れでも被害を小さくできるよう、平時の暮らしを整えておくことです。
令和8年熊本地震と首都圏の震度5弱は、地震が地域や時間を選ばず起こり、高層建築では長周期地震動への備えも必要になることを示しました。地震の発生日を正確に予測できない以上、私たちにできる最も確実な対策は、生活空間の危険を一つずつ減らすことです。
まずは寝室の家具、避難経路、備蓄、家族の連絡方法を確認することから始められます。「いつか準備する」のではなく、今日一つだけでも危険を取り除くことが、次の地震で自分や家族の命を守る力になります。
主な参考資料
- 気象庁「令和8年7月28日16時27分頃の熊本県熊本地方の地震について」2026年7月28日
- 気象庁「令和8年熊本地震ポータルサイト」2026年
- 気象庁「令和8年8月23日02時00分頃の茨城県南部の地震について」2026年8月23日
- 気象庁「長周期地震動の観測結果」2026年8月23日
