2026年、日本政府が円買い介入に投じた金額は累計27兆1,342億円に達した。政府が外貨を売って受け取った巨額の円資金を、2027年4月から2年間の飲食料品消費税減税に活用できないのか。本稿では、介入額と現存する円残高を区別したうえで、外為特会の剰余金と資産を時限措置の財源にする方法を検証する。

7月30日から8月26日の介入額は15兆3,993億円

財務省は2026年8月28日、7月30日から8月26日までの外国為替平衡操作額が15兆3,993億円だったと発表した。4月30日、5月4日、5月6日に実施した11兆7,349億円と合わせると、2026年の介入累計は27兆1,342億円となる。

4~5月分については、財務省が3日間とも「米ドル売り・日本円買い」だったと日別に公表している。7月末以降についても円買い介入であることは政府発表や市場の動きから明らかだが、日別の金額と売買通貨の正式な内訳は、11月上旬に予定される四半期資料を待つ必要がある。

今回の月間介入額は、4~5月に記録した11兆7,349億円をさらに上回った。政府は半年足らずの間に27兆円を超す外貨を売却し、それに見合う円を市場から買い入れたことになる。

  • 【確定情報】7月30日~8月26日の介入総額:15兆3,993億円
  • 【確定情報】4月30日~5月6日の介入総額:11兆7,349億円
  • 【確定情報】2026年の介入累計:27兆1,342億円
  • 【未確定】7月30日以降の日別金額と通貨別内訳

出典:財務省「7月30日~8月26日の外国為替平衡操作」、財務省「2026年4~6月の外国為替平衡操作」

27兆円の介入額と「使える円残高」は同じではない

円買い・外貨売り介入では、政府は外貨資産を売り、円を受け取る。その意味では、2026年の介入によって外為特会に27兆円規模の円資金が流入したという理解は正しい。

しかし、27兆1,342億円がそのまま外為特会の口座に残っているとはいえない。介入資金の決済に加え、外国為替資金証券の償還、外貨証券の売買、一般会計への繰入れなど、外為特会では日々多額の資金が動いているためだ。

最新の確定決算である2024年度末、すなわち2025年3月31日時点の外為特会の現金・預金は27兆3,417億円だった。このうち円貨預け金は5兆8,408億円、外貨預け金は21兆5,009億円であり、「現金・預金」の全額が円ではない。

しかも、この数値は2026年の大規模介入より前の残高である。2026年8月末時点の円貨預け金はまだ公表されておらず、介入累計額だけから現在の円残高を逆算することもできない。

出典:財務省「2024年度 外国為替資金特別会計財務書類」

介入で得た円は為券の償還に使われる

外為特会は、円売り・外貨買い介入を行う際、政府短期証券の一種である外国為替資金証券、通称「為券」を発行して円を調達する。その円でドルなどを買い、取得した外貨を米国債などで運用してきた。

反対に円買い・外貨売り介入を行うと、外貨資産を売って円を受け取る。財務省は、この円貨を為券の償還に充てる仕組みだと明記している。

2024年度末の政府短期証券残高は97兆5,544億円に上った。2026年の介入で得た円を償還に回せば、外貨資産と負債がともに減り、外為特会の貸借対照表が縮小する。

ここで27兆円の一部を一般会計へ移せば、その分だけ為券の償還を減らすか、別の外貨資産を追加で売る必要がある。新たな特例公債を発行しなくても、本来減らせた政府債務を残すことになるため、介入円を「ただで生まれた財源」と表現するのは正確ではない。

出典:財務省「外国為替資金特別会計が経理している事務」、e-Gov法令検索「特別会計に関する法律」

外為特会は剰余金だけでも大きな利益を生んでいる

介入で得た円の元本とは別に、外為特会には毎年度の運用益がある。保有する米国債などの利子収入や外国為替等の売買差益から、為券の利払いなどを差し引いた結果が決算上の剰余金となる。

2024年度の剰余金は5兆3,603億円だった。そのうち1兆3,717億円を外国為替資金に組み入れ、3兆2,007億円を一般会計へ繰り入れ、7,878億円を翌年度へ繰り越している。

つまり、外為特会の利益を一般財源に活用する仕組みはすでに存在する。新たに必要なのは、2年間に限って一般会計への繰入れを食品減税の財源として優先配分する制度設計である。

ただし、2024年度の剰余金5兆3,603億円を2027年度の新財源としてもう一度数えることはできない。すでに配分が決まった過年度の数字であり、今後の剰余金も為替、海外金利、国内の短期金利によって変動するためだ。

外為特会の2024年度末の資産は191兆3,753億円、負債は110兆6,999億円で、資産・負債差額は80兆6,754億円だった。このうち50兆2,515億円は為替換算差益であり、円高になれば縮小する含み益であることにも注意が必要だ。

出典:財務省「2024年度決算・外国為替資金特別会計」、財務省「2024年度 外国為替資金特別会計財務書類」

食品減税には2年間で約10兆円が必要になる

高市内閣は、2027年4月1日から2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%へ引き下げる方針を示している。さらに中低所得の現役勤労者には、残る1%相当の所得連動給付を先行導入し、飲食料品の負担を実質ゼロにする構想だ。

政府・与党は、特例公債に頼らず、補助金、基金、租税特別措置などを見直して財源を確保するとしている。高市首相は2026年8月28日、外貨準備の活用も財源候補になり得るとの考えを示したと報じられた。

税率を8%から1%へ下げる減収額は年約4.4兆円、所得連動給付は年約0.6兆円と推計されている。正式な制度設計によって変わるものの、必要額は年約5兆円、2年間で約10兆円が目安になる。

この約10兆円は政府が示した確定予算額ではなく、民間試算などに基づく概算である。対象品目、地方税収の補塡、給付対象、事務費が決まれば、必要額は変動する。

出典:自民党「消費税減税 来年4月実施へ方針表明」、首相官邸「飲食料品に係る消費税率の引下げ及び給付付き税額控除」、Reuters「高市首相、外貨準備活用の可能性に言及」

提言――剰余金を優先し、介入円の活用には上限を設ける

2年間限定の食品減税には、恒久税収ではなく期間限定の税外収入を充てる考え方が合う。外為特会を使うなら、まず2025年度以降に確定する決算剰余金と、2026年の外貨売却で確定する外国為替等売買差益を優先して一般会計へ繰り入れるべきだ。

それだけで不足する場合は、2026年の介入で得た円資金のうち最大5兆円を上限に、為券の償還へ充てる予定額から一般会計へ振り替える。2年間の総財源枠を10兆円とし、剰余金が多いほど元本の取り崩しを減らす仕組みにする。

最大5兆円という上限なら、27兆1,342億円の介入累計の2割未満に収まる。残る22兆円以上を為券の償還に回せるため、外貨資産を減らしたのに負債を全く減らさないという事態も避けられる。

ただし、介入円から5兆円を振り替えれば、為券残高が本来より5兆円多く残る。その利払い負担も含めて国民に示し、「特例公債を発行しない」という形式だけでなく、政府全体の純資産がどう変わるかを開示しなければならない。

実施には、特別会計に関する法律と各年度予算に基づく一般会計繰入れの明確な根拠が必要になる。為替介入能力を損なわない最低外貨準備額、取り崩し上限、2029年度以降の剰余金による復元ルールも法律に盛り込むべきだ。

制度の透明性を高めるため、政府は毎年度、剰余金、実現した売買差益、介入で取得した円、為券の償還額、一般会計への繰入額を一つの表で公表する必要がある。そうすれば、介入総額を現金残高と取り違える議論も防げる。

外貨準備は聖域でも埋蔵金でもない

外貨準備は為替相場の安定や外貨流動性の確保に使う政策資産であり、通常の歳出財源と同じようには扱えない。一方で、国民の負担で積み上げた公的資産である以上、その規模と収益を検証せず、すべてを聖域にする理由もない。

重要なのは、「187兆円あるから使えばよい」という粗い議論を避けることである。外為特会の資金残高187兆278億円には外貨証券などが含まれ、約98兆円の為券をはじめとする負債も存在する。

同様に、「27兆円を介入で受け取ったから27兆円使える」ともいえない。公開資料で現存円残高を確認し、為券償還後に使える額と、政策判断で債務を残して使う額を分ける必要がある。

結論――2年間の家計支援に、外為特会を計画的に使う

2026年の円買い介入累計27兆1,342億円は確定した。しかし、現在も同額の円が外為特会に残っているわけではなく、最新の円貨残高も未公表である。

それでも、外為特会が食品減税の有力な財源候補であることは変わらない。毎年度生じる剰余金を最優先し、不足分だけ介入で得た円資金から上限付きで振り替えれば、特例公債への依存を抑えながら2年間の家計支援を実施できる。

これは「隠れた27兆円を配る」という提案ではない。外貨資産、為券、剰余金を一体で管理し、国の資産の一部を時限的な減税へ振り向ける政策選択である。

高市内閣が外貨準備の活用を掲げるのであれば、政府はまず2026年8月末の円貨残高、介入に伴う売買差益、為券の償還計画を公開すべきだ。その数字を国会で検証し、上限と復元ルールを備えた「外為特会・食品減税財源枠」を設けることを提言したい。