非核三原則は今の日本に適しているのか

戦後日本の象徴とされてきた非核三原則──「持たず・作らず・持ち込ませず」。
しかし、2025年時点でこの原則は、本当に日本の安全保障を守る仕組みとして機能しているのだろうか。
中国の急速な軍拡、北朝鮮の核ミサイルの実戦配備、ロシアの核恫喝。世界はすでに“戦後の常識”が通用しない時代に入り、日本の立場も例外ではない。

本稿では、非核三原則の成り立ちと位置付けを確認したうえで、戦後80年を迎える今、日本がこの方針をどう扱うべきかを検討する。日本社会として、核をどう向き合うかという「国家の覚悟」が問われている。

1. 非核三原則とは何か──法律なのか、それとも国是なのか

まず最初に明確にしておきたいのは、「非核三原則は法律ではない」という点である。
三原則は、1967年に佐藤栄作首相が国会で表明した政府方針であり、1971年に衆議院で「決議」として採択された。しかし、法律のような強制力はなく、あくまで国の基本方針、いわば“国是”として扱われてきたに過ぎない。

一方で、核兵器そのものは以下によって厳格に縛られている。

  • 原子力基本法:原子力の軍事利用を禁じている
  • 核拡散防止条約(NPT):日本は非核兵器国として加盟
  • 日米安保:米国の核抑止に依存する体制

つまり、非核三原則は戦後日本のアイデンティティとしては重いが、「法的拘束力を持つ仕組み」ではなく、政治判断で見直しが可能な政策である。

2. なぜ今「非核三原則」を問い直す必要があるのか

非核三原則は、核戦争の恐怖と被爆国としての道義性を背景に作られた。しかし2025年の国際情勢は、当時の想定をはるかに超えている。

■中国の核戦力はすでに世界レベル

中国は急速に核戦力を増強し、2030年代には1000発規模の弾頭を保有すると予測されている。
加えて、極超音速ミサイルや長距離精密攻撃能力の整備が進み、日本全域が射程内に入っている。

■北朝鮮は「実戦用核ミサイル」を持つ段階

北朝鮮は戦術核の配備をほぼ完了させ、弾道ミサイルは北海道から沖縄まで日本列島全域をカバーする。
日本は事実上、いつでも核による恫喝の対象になっている。

■ロシアは核を「外交の道具」として常用

ウクライナ戦争を通じて露呈したのは、ロシアが核恫喝を戦略の一部として組み込んでいるという現実だ。
アジアでもロシアは核戦力の再配置を進めており、日本への影響は決して小さくない。

以上の環境を踏まえれば、非核三原則の“絶対視”は、もはや日本の安全保障にとって適切ではない。むしろ、問われるべきは「何を守るために、どこまでを許容するのか」である。

3. 高市政権は非核三原則をどう扱うのか

2025年に発足した高市政権は、歴代政権に比べ安全保障政策に強い意欲を持つとされる。
特に注目されているのは、第三原則「持ち込ませず」の扱いである。

■高市首相は「堅持する」と明言していない

これまでの国会答弁や政権方針を見る限り、高市首相は非核三原則の堅持を断言していない。
これは、三原則そのものを廃止する意図ではなく、将来的な運用変更に余地を残す姿勢と考えるべきだ。

■見直しの焦点は第三原則「持ち込ませず」

三原則の中で最も現実環境と衝突しているのは「持ち込ませず」である。

  • 米国の戦術核のローテーション配備
  • 有事の核持ち込み
  • NATO型「核共有」への参加

これらは、抑止力の観点から現実的な選択肢となりつつある。
したがって、最初に議論されるのは第三原則であり、高市政権がこれを柔軟化する可能性は十分に考えられる。

4. 日本は潜在的「核保有国」であるという現実

日本は核を持っていないが、技術的には「世界最短で核武装できる国」と評価されている。

■核兵器の材料

  • 分離プルトニウム:約44トン(核弾頭換算で数千発)
    これは民生用とはいえ、他国から見れば「潜在能力そのもの」である。

■核製造技術

  • 再処理施設
  • 高度な原子力工学
  • H3ロケットなどの運搬手段
  • 高精度の材料加工技術

核兵器開発に必要な技術要素の多くを日本はすでに保有している。

■潜在力は外交カードになる

核兵器を持つ意思がなくとも、潜在力そのものが国際交渉力を高めるというのは古典的な安全保障論である。
非核三原則を見直す議論は、この潜在力をどのように扱うかという問いにも直結する。

5. 非核三原則は何を残し、何を見直すべきか

では、三原則をどのように再設計すべきか。
現実的なアプローチは段階的な見直しだ。

【1】第一原則「持たず」は短期的には維持

現状では、NPT離脱による制裁リスクと国内世論の反対を踏まえると、即時変更は現実的ではない。
しかし、「永遠に不変」と固定化するのは危険である。

【2】第二原則「作らず」も維持。ただし潜在力は保持

核燃料サイクルを維持する限り、日本の潜在力は確保される。
「作らない」ことと「作れない」ことは異なる。

【3】第三原則「持ち込ませず」は最優先で見直し対象

現代の安全保障環境では、ここを固定化することは日本の抑止力の弱体化につながる。
米軍の核を一切受け入れないという姿勢は、逆に日本の安全保障を危機にさらす。

非核三原則は「守るために変える」段階に入った

戦後80年、日本は二度の大戦と被爆を経験した国として、長く「核を拒む国」であり続けた。
しかし、現実の国際社会では、核の有無が国家生存を左右する構図が露骨になっている。

非核三原則は、もはや「絶対的な聖域」ではなく、
国家を守るために再設計すべき政策要素である。

特に第三原則「持ち込ませず」の柔軟化は、日本が核恫喝に屈しないための最低条件といえる。
もし日本が核に対して思考停止を続けるなら、日本という国家の存続そのものを危うくしかねない。

未来の日本が「何を守り、何を選ぶのか」。
非核三原則の見直し議論は、その覚悟を国民に問い直す出発点となる。