――自治体財政と将来負担を冷静に考える
近年、「給食費無償化」を掲げる自治体が急速に増えている。子育て支援策としての分かりやすさ、家計負担の軽減効果、政治的アピールの強さもあり、首長選挙や国政議論でも頻繁に取り上げられるテーマとなった。
しかし、この政策は本当に「得」なのだろうか。無償化の裏側にある自治体財政への影響や、将来の税負担への跳ね返りについては、十分に語られているとは言い難い。ここでは制度の実態を整理し、持続可能性という観点から検討してみたい。
給食費無償化とは何を意味するのか
まず確認しておくべき点は、「無償化」とは給食が無料になることではないという事実だ。給食の材料費、人件費、調理設備費が消えるわけではなく、保護者負担から自治体負担へと支払主体が移るだけである。
一般的な小中学校給食では、
- 食材費:月4,000〜5,000円程度(児童生徒1人あたり)
- 人件費・設備費:自治体負担
という構造になっている。無償化によって増えるのは、主に食材費分の恒常的支出である。
児童生徒1万人規模の自治体であれば、年間4〜6億円規模の新たな固定支出が発生する計算になる。
なぜ自治体ごとに対応が分かれるのか
給食費無償化が全国一律で進まない理由は明確だ。自治体の財政力に大きな差があるからである。
- 人口増加地域・税収が安定している自治体
- 企業立地や観光収入がある自治体
こうした地域では、無償化を「吸収可能な支出」として扱える。一方で、
- 人口減少が進む地方自治体
- 高齢化率が高く社会保障費が膨らむ地域
では、同じ政策が財政を圧迫する要因になりやすい。
実際、無償化を実施したものの、数年後に「所得制限付き」に変更したり、「小学校のみ」に縮小した自治体も存在する。制度は始めるより、続ける方が難しいのである。
無償化の財源はどこから来るのか
多くの自治体は、以下のいずれか、または組み合わせで財源を確保している。
- 一般財源(住民税・固定資産税など)
- 国の交付金・補助金
- 他事業の削減による捻出
ここで注意すべきなのは、交付金は永続的に保証されないという点だ。制度変更や財政事情によって縮小・終了する可能性が常にある。
その場合、残る選択肢は
- 地方税の引き上げ
- 他サービスの削減
のいずれかになる。つまり、「今の無償」は将来の負担先送りになっている可能性がある。
家計はどれほど楽になるのか
では、家計側のメリットはどうだろうか。
仮に小学生1人で年間5万円前後の給食費が無償化されれば、確かに一定の助けにはなる。しかし、
- 習い事
- 学用品
- 塾・部活動費
といった教育関連支出全体から見れば、給食費の占める割合は限定的だ。
特に中所得以上の世帯にとっては、体感的なインパクトは小さい。一方で、低所得世帯については、本来は就学援助制度など、より精密に設計された支援策が既に存在している。
無償化は「広く薄く」の支援であり、最も支援が必要な層に最適化されているとは言い切れない。
公平性の問題は解決されているのか
給食費無償化には、もう一つの論点がある。それは地域間・世代間の公平性だ。
- 無償化自治体の住民と、隣接する非無償化自治体の住民
- 子育て世帯と、子どもを持たない世帯
- 現役世代と、将来世代
負担と受益のバランスは必ずしも一致しない。
特に将来世代にとっては、無償化の財源として積み上がった恒常支出が、税負担や行政サービス縮小という形で返ってくる可能性がある。
持続可能な支援策とは何か
給食費無償化を「是か非か」で単純に判断することは難しい。重要なのは、持続可能性をどう設計するかである。
考えられる代替・補完策としては、
- 所得連動型の給食費軽減
- 一定年限付きの無償化(検証前提)
- 教育全体への包括的支援への再配分
などが挙げられる。
無償化は分かりやすいがゆえに、政策としての「完成形」に見えやすい。しかし、財政は感情ではなく数字で持続性が決まる。
無償化は「善意の政策」だが万能ではない
給食費無償化は、子育て世帯にとって歓迎されやすい政策であり、否定されるべきものではない。ただし、それが長期的に自治体と住民双方にとって本当に得なのかは、冷静な検証が必要だ。
目先の負担軽減と、将来の財政健全性。そのバランスをどう取るのか。
給食費無償化は、自治体の財政運営そのものを映す鏡とも言える。
