なぜ日本の医療費は「努力しても」減らないのか?

結論から言えば、日本の医療費が減らない最大の理由は制度設計そのものが「増える前提」で組まれているからである。
無駄遣い、過剰診療、医師のモラルといった個別論点では、この構造的問題は解決しない。

日本はすでに「高齢化社会」ではない。
世界で最も進んだ超高齢社会に突入しており、医療費の増加は例外的事象ではなく、制度が正常に作動した結果である。

医療費はどれほど増えているのか?

日本の医療費(国民医療費)は、ここ数十年ほぼ一貫して増加を続けている。
とくに顕著なのは、75歳以上の後期高齢者層による医療費の急増だ。

独自に整理すると、医療費増加の内訳は次の3要因に集約される。

  • 高齢者人口そのものの増加
  • 一人あたり医療費の上昇
  • 医療技術の高度化による単価上昇

これは景気や政策努力とはほぼ無関係に進行する「人口構造の問題」である。

なぜ高齢者医療は高コストになるのか?

高齢者の医療費が高くなる理由は明確だ。

  • 複数の慢性疾患を同時に抱えやすい
  • 完治ではなく「管理型医療」が中心になる
  • 入院期間が長期化しやすい

特に重要なのは、医療が「治す」から「支え続ける」へと性質を変える点である。
この段階に入ると、医療費は削減対象ではなく、社会保障費として固定化される。

医療費削減策はなぜ効果が出ないのか?

政府はこれまでも、さまざまな医療費抑制策を導入してきた。

  • 診療報酬改定
  • 後発医薬品(ジェネリック)の推進
  • 入院日数短縮政策

しかし、これらは増加ペースを緩める効果はあっても、総額を減らす力は持たない。

理由は単純で、患者数そのものが増え続けているからだ。

蛇口を少し締めても、浴槽に注がれる水量が増え続けていれば、水位は下がらない。

医療技術の進歩は医療費を下げないのか?

直感的には「技術革新=コスト削減」と考えがちだが、医療では逆が起きやすい。

  • 新薬は高価
  • 精密検査機器は高額
  • 延命治療が可能になる

結果として、「治らなかった病気が治る」よりも
**「これまで亡くなっていた人が長く医療を使い続ける」**構造が生まれる。

医療の進歩は、医療費削減装置ではなく、医療費拡張装置として機能している。

自己負担を上げれば解決するのか?

よくある議論が「高齢者の自己負担を引き上げればよい」というものだ。

確かに短期的には財政効果がある。
しかし、ここにも限界がある。

  • 受診抑制による重症化
  • 結果的な入院費増加
  • 低所得高齢者への配慮問題

医療費は「我慢すれば使わなくて済む消費」ではない。
命と直結する支出であり、価格メカニズムが完全には機能しない。

医療費問題の本質は「世代構造」にあるのではないか?

ここで避けて通れないのが、世代間構造の問題である。

  • 支える側(現役世代)は減少
  • 支えられる側(高齢者)は増加

この逆三角形構造は、制度努力では覆せない。

現役世代の保険料負担はすでに限界に近く、
「これ以上の負担増=可処分所得の圧迫」を意味する。

医療費問題は、医療の問題ではなく、人口と社会構造の問題なのである。

国際比較で見た日本の特殊性とは?

経済協力開発機構であるOECDのデータを見ると、日本の医療費水準は突出して高いわけではない。

しかし、日本には明確な特徴がある。

  • 入院日数が長い
  • 高齢者比率が極端に高い
  • 医療へのアクセスが極めて容易

これらが組み合わさることで、
**「使いやすく、長く、頻繁に使われる医療制度」**が成立している。

医療費を減らせない社会は失敗なのか?

重要なのは、「医療費が減らない=失敗」と短絡しないことだ。

医療費が増えているという事実は、

  • 長生きできている
  • 医療が行き届いている
  • 社会として弱者を支えている

という側面の裏返しでもある。

問題は「増えていること」ではなく、
それをどう支えるかの設計が追いついていないことにある。

これから必要なのは何か?

医療費を「減らす」発想から、
「どう受け止め、どう分配するか」への転換が不可欠だ。

具体的には、

  • 医療と介護の一体化
  • 在宅・地域医療への本格移行
  • 社会保障全体での優先順位整理

医療費問題は単独では解けない。
年金、介護、労働、人口政策と一体で考える課題である。

結論:医療費は減らせない。だからこそ現実を直視すべきだ

医療費は、もはや削減可能な「無駄」ではない。
それは日本社会が選び続けた結果であり、同時に責任でもある。

減らす幻想よりも、
持続させる現実的な設計こそが問われている。