“増税国家ニッポン”を問う 第2回
日本の「国の借金」が1200兆円を超え、国民1人あたりの借金が1000万円近くに達している──。政府や財務省は繰り返しこのような警告を発しているが、この主張には多くの専門家から批判が寄せられている。実際のところ、この「国の借金」とは誰のもので、何を意味するのだろうか。財務省があえて語らない、日本の真の財政状況を明らかにするために、プライマリーバランス、バランスシート、統合政府という考え方から解説していく。
「国の借金」とプライマリーバランスの誤解
日本政府は長らくプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を目指している。プライマリーバランスとは、国債の利払いを除いた歳入と歳出の差であり、この黒字化が財政健全化の重要な指標とされている。しかし、プライマリーバランスだけに注目することは、本当に適切なのだろうか。
実は、プライマリーバランス黒字化という目標自体が、国家経営の本質を見失わせる可能性がある。国家財政は、個人や家庭の家計簿とは根本的に異なる仕組みを持つため、単純に収入と支出の差だけで財政を判断するのは不十分なのだ。
バランスシートの視点が欠けている財政議論
日本政府の借金について語る際、多くの議論に欠けている視点がある。それが「バランスシート」だ。企業経営では資産と負債の両方を示すバランスシートが用いられるが、政府の場合、負債(借金)ばかりが強調され、資産がほとんど語られない。
実際、日本政府は多くの資産を保有している。土地や建物、道路や橋梁などのインフラをはじめ、年金積立金(GPIF)などの金融資産も巨額だ。日本政府の資産総額は、財務省の公表資料によると約700兆円を超える。つまり、負債1200兆円から資産700兆円を差し引けば、実質的な純負債は約500兆円にまで減少する。
しかし、財務省はこの資産側の情報を十分に強調しないため、「借金だけが膨大で日本は破綻寸前」というイメージが定着してしまった。
統合政府という考え方──日銀と政府を一体として考える
さらに財政問題を考える上で重要なのが、「統合政府」の考え方である。統合政府とは、政府と日本銀行を一体として財政を考えるという発想だ。現在、日本銀行は政府が発行する国債の多くを保有している。そのため、政府が日銀に支払う利子は最終的に政府に還元される仕組みであり、実質的には借金が大幅に圧縮される構造になっている。
統合政府の視点で見れば、日本の財政状況は大きく異なった景色を見せる。日銀が保有する国債の割合は50%を超えているため、統合政府ベースで計算すれば、日本の実質的な負債は公式発表よりさらに少なくなることがわかる。
「国の借金」は誰が返済するのか?
では、この「国の借金」は誰が返済するのだろうか。実はこの問い自体が大きな誤解を含んでいる。政府の借金は、基本的に将来の税収や新たな国債発行によってロールオーバー(借り換え)され続ける。つまり、個人の借金とは違い、「完済する」という発想そのものが必要ないのだ。
さらに日本の国債の多くは日本国内の金融機関や日銀が保有しているため、国外に対する債務ではない。対外純資産が世界最大規模である日本にとって、外国に対して借金を返済しなければ破綻するという状況は極めて考えにくい。
財務省が語らない本当のリスクとは
本当に日本経済が気をつけなければいけないのは、借金の額そのものではなく、経済成長が停滞し、適切な投資が行われず、生産性が向上しないことだ。将来世代に対する負担とは、「借金の返済義務」ではなく、「経済が成長しないことによる生活水準の低下」なのだ。
現実には、日本政府は「緊縮財政」にこだわり続けるあまり、成長投資を怠っていることこそが最大の問題だろう。財政を単なる節約ゲームと捉えるのではなく、経済全体の成長や国民生活の向上を目的とした長期的な視野を持つことが不可欠なのだ。
増税の必要性は本当にあるのか?
政府が増税を主張する際、必ず出てくる「財政が苦しい」という言葉は、これまで見てきたように極めて不十分である。実際には、日本にはまだ多くの財政余力が存在し、増税という短絡的な方法以外にも財政再建と経済成長を両立させる道はある。
増税は経済活動を萎縮させる恐れがあり、景気の低迷を引き起こすリスクも伴う。財務省が主張する財政再建のための増税が、実は逆に経済成長を妨げ、結果的に財政をさらに悪化させる可能性があることに気づく必要がある。
真の財政再建に必要なこと
日本が真に目指すべき財政再建とは、増税や緊縮財政に依存するのではなく、経済成長と適切な政府支出を通じて、国民生活を豊かにすることだ。プライマリーバランスや借金総額だけにとらわれず、統合政府やバランスシートの視点を取り入れ、現実的かつ健全な財政政策を推進することが求められている。
「国の借金」の本当の姿を理解することが、健全な財政政策と経済成長を両立させる第一歩となるだろう。