レアアースを中国が支配していることは広く知られているが、半導体において「急所」を握っているのは実は日本ではないか。レアアースはブラジルやオーストラリアなど代替地があるが、フォトレジストとシリコンウェハ市場では日本企業が極めて強い立場にある。果たして日本が供給を止めた場合、どの国が最も大きな打撃を受けるのか。
中国への影響は最も大きい
第一に、中国だ。中国はレアアースやレガシー半導体で存在感を示しているものの、先端製造に必要なフォトレジストや超高純度フッ酸、最先端のコーター/デベロッパ(塗布・現像装置)については日本に大きく依存している。
フォトレジストでは日本のシェアが80〜90%、EUV向けでは事実上独占とされる。さらに東京エレクトロンやSCREENが供給するコーター/デベロッパは世界シェア約90%。もし日本が供給や保守を止めれば、中国の先端ラインは数週間で歩留まり悪化に陥り、1〜3か月で縮小・停止が避けられない。
代替供給を他国に求めても、検証(バリデーション)に数か月から年単位を要するため、短期的には実質的に「詰む」構造となる。
韓国は2019年の記憶を忘れられない
次に韓国。2019年に日本が輸出管理を厳格化した際、対象となったのはフォトレジスト、フッ化水素、フッ素系ポリイミドの3品目だった。世界シェアでみるとレジスト・FPIは90%、フッ化水素は70%が日本発。サムスン電子やSKハイニックスは巨額の在庫確保を余儀なくされ、韓国政府も国産化政策を急いだ。
結果的にライン停止は免れたものの、承認遅延や品質不安で操業リスクが増大したことは事実。つまり「日本が輸出を止めるだけでファブが揺さぶられる」という現実が、すでに実証されている。
台湾と米欧はどうか?
台湾のTSMCも日本依存が強い。シリコンウェハは信越化学とSUMCOが世界の過半を握る。フォトレジストも同様だ。ただし台湾の場合、米国アリゾナや日本熊本など複数拠点を持ち、調達ルートの分散を進めているため、中国や韓国ほど即時の打撃は少ない。
米欧については、CHIPS法などを背景に国内回帰を進めており、日本企業の米国工場誘致を通じて「依存の地理的リスク」を下げている。したがって日本が単独でカードを切った場合、米欧への影響は限定的だろう。
なぜ「全面停止」になりにくいのか?
もちろん、日本も半導体で海外売上が大半を占めるため、全面輸出停止は日本企業にとっても自傷行為だ。だが、カードを切る「可能性」そのものが国際交渉では強力な抑止力となる。中国がレアアースを戦略資源としたように、日本も「半導体カード」を持っている事実は否定できない。
半導体の実権は誰に?
総合すると、「半導体カード」を外交で最も有効に使えるのは日本だ。代替困難な素材と装置を握ることで、短期的には中国・韓国に決定的な打撃を与えることができる。台湾や米欧も影響は受けるが、リスク分散である程度の緩和が可能。
つまり、半導体の実権を握っているのは特定の一国ではなく、「日本を中心とした相互依存」なのだ。その中で、日本が最も強力な“チョークポイント”を握っているという事実は、今後の地政学的駆け引きに大きな意味を持つ。