なぜ米国は日本の力を必要とするのか?

米国はCHIPS法に基づき、半導体サプライチェーンを国内に呼び戻そうとしている。しかし、設計や露光装置に強い米国であっても、素材や消耗品では日本の独占的シェアに依存している。米国が真に「自立」するには、日本の強みを国内に取り込む以外に道はない。

具体例① JSRによる米国EUVレジスト生産

2021年、JSRは米オレゴン州のInpriaを買収し、金属酸化物系EUVレジストを米国で量産する体制を整えた。これはEUVリソグラフィーに必須で、日本企業が唯一世界規模で供給可能な技術である。米国内に工場を持つことで、TSMCアリゾナやインテルの先端ラインを直接支える構図ができあがった。

具体例② NRS Logisticsのアリゾナ拠点

化学薬品の輸送・保管を担う日本のNRSグループは、アリゾナ州カーサグランデに新拠点を設立。ここではTSMCやインテルが必要とする高純度薬品を安全に配送できる体制を構築している。まさに“血液”とも言える薬品サプライチェーンが、米国内に移植されつつある。

具体例③ Kanto Groupの電子グレード硫酸工場計画

Kanto Groupは米Chemtradeと合弁で、アリゾナに超高純度硫酸工場を建設する計画を進めている。コスト問題で一部停滞はあるものの、米国が日本企業の技術を呼び込みたいという意思の表れだ。素材は地味だが、歩留まりを左右する不可欠要素であり、米国内での供給は戦略的価値が大きい。

具体例④ RapidusとNY CREATESの研究連携

日本のRapidusは北海道に先端2nmラインを建設中だが、米国ニューヨーク州の研究機関NY CREATESと人材・技術交流を進めている。これは単なる研究協力にとどまらず、日本の技術シーズを米国の研究基盤に結びつける試みであり、米国が日本の強みを「制度的に取り込む」事例といえる。

米国の戦略は“地理的リスクの低減”

これら一連の動きは、単に日本企業を歓迎するだけではない。米国は、中国有事や地政学リスクに備えて、日本の強みを米国内に固定化する狙いがある。つまり「日本がカードを切れないようにする」戦略である。
同盟国としての協力と同時に、依存を自国に取り込むことで日本の交渉カードを削ぐ、という二面性を持つ点は注目すべきだ。

日本の力は武器か、資産か

米国は日本の半導体素材・装置の強みを高く評価しつつ、着実に国内化している。日本にとっては輸出依存のリスクを下げるチャンスでもあるが、同時に「外交カード」としての力が薄まる可能性もある。
結局のところ、日本の強みは武器でも資産でもあり、それをどう使うかは戦略次第だ。米国との協調は避けられないにせよ、日本は自らの“急所”を意識的に活用しなければならない。