四日市で起きた“想定外”の出来事

三重県四日市市で観測史上最大級とされる大雨が降り、市内中心部の地下駐車場が水没しました。地下1階と2階あわせて274台の車が浸水被害に遭ったことが確認されています。
映像では、駅前の道路が冠水し、人々が膝下まで水に浸かって歩く姿や、立ち往生する車が映し出されました。こうした光景は決して四日市だけの特異な話ではなく、日本のどの都市でも起こり得る現実だと感じさせます。

半世紀を超える歴史を持つ地下空間

地下駐車場は高度経済成長期から都市の再開発に合わせて整備されてきました。地上の限られた空間を効率的に使うため、地下に駐車場をつくるのは合理的な答えでした。
長年にわたり、多くの人々が利用し、豪雨や台風を何度も経験してきたにもかかわらず、「地下が丸ごと水没する」ことはまれでした。だからこそ「地下なら安全」という認識が広まり、当たり前のように使われ続けてきたのです。
しかし、今回の四日市の出来事は、その常識を覆すものでした。

気候変動が都市インフラに突きつける課題

ここ十数年、「ゲリラ豪雨」と呼ばれる短時間で猛烈な雨が目立つようになりました。従来のインフラは一定の雨量を前提に設計されていますが、1時間に100ミリを超えるような雨が都市中心部に集中して降れば、排水は間に合わなくなります。
「これまでなかったから大丈夫」とは言えない時代に入っているのです。

平置き駐車場の限界と高額化

では、地下を避けて平置きの駐車場を使えば安心かといえば、それも現実的ではありません。
都市の中心部では平置き駐車場自体が少なく、たとえ空きがあっても料金は非常に高額です。月極めで数万円から十数万円というケースも珍しくなく、長期的に利用するのは現実的ではないでしょう。
結果として、多くの人が地下や機械式の駐車場を選ばざるを得ないのです。これは東京や大阪の大都市だけでなく、地方の県庁所在地や再開発が進む中規模都市でも同じ傾向が見られます。

機械式駐車場のリスク

都市部ではスペースを効率的に使うために、立体的に車を収容する機械式駐車場が広く導入されています。その中には地下深くに車を格納するタイプもあります。
普段は便利で合理的に見えるこの仕組みも、ひとたび豪雨によって浸水すれば、車だけでなく機械設備そのものが被害を受け、復旧費用は莫大になります。
さらにやっかいなのは、被害を受けたあとに「利用者が負担する部分」と「管理会社の責任」が交錯し、トラブルになりやすい点です。災害後に誰がどこまで費用を負担するかを巡って揉めるケースは少なくありません。

車両保険という備え

こうした現実を踏まえると、やはり重要になるのは車両保険です。
特に洪水や豪雨による水没を補償する「水災補償」を含むタイプでなければ、地下で車が全損しても何の補償も受けられません。
確かに保険料は高額ですが、数百万円から数千万円する車が一瞬で失われるリスクを思えば、その負担を避ける選択は危ういと言わざるを得ません。都市で暮らし、地下や機械式駐車場を日常的に使う以上、保険はもはや“任意”ではなく“必須”に近い存在になっています。

“想定外”を前提にする時代

四日市の地下駐車場水没は、「地下は安全」という長年の前提を覆した出来事でした。
都市は便利さと快適さを提供する一方で、自然災害に対しては脆弱です。気候の変化によって、数十年に一度とされた災害が、もはや「明日起きても不思議ではない」ものになっています。

私たちにできることは限られています。行政や事業者によるインフラ整備も必要ですが、個人としては駐車場選びや保険加入、そして「地下空間は必ずしも安全ではない」という意識を持つことが、唯一の備えになるのです。

結びにかえて

四日市の出来事は、特定の都市の特殊な災害ではありません。
大都市でも地方都市でも、地下や機械式に頼らざるを得ない駐車環境は広がっています。そして、平置き駐車場があっても料金が高額で現実的ではないという背景は、多くの人が共有する課題です。

利便性を求めて都市で暮らす以上、リスクを抱えるのは避けられません。大切なのは、そのリスクを自覚し、自分なりの備えを選び取ること。地下駐車場の水没は、私たち一人ひとりが「想定外を前提に行動する」必要があることを教えているのではないでしょうか。