生活保護の受給者数は、実はここ10年ほど増え続けているわけではなく、むしろ減少傾向にある。
多くの人が「生活保護はどんどん増えている」と感じている。
ニュースやSNSで取り上げられる機会が多く、制度への関心が高まっているためだ。
しかし、実際のデータを見ると印象は大きく異なる。
生活保護受給者数は2015年前後にピークを迎え、その後は緩やかな減少傾向にある。
つまり、「増え続けている制度」というより、むしろ「高齢化の影響で一定数を維持している制度」が実態に近い。
印象と現実の間には、明確なズレが存在しているのである。
なぜ「増えている」と感じるのか?──目立つ事例が全体像を歪めている
人は統計ではなく印象で判断するため、一部の強い事例が全体の増加のように感じられる。
生活保護に関する報道の多くは、不正受給や制度の問題点に焦点を当てる。
これはニュースとして注目を集めやすいため、必然的な傾向でもある。
しかし、こうした事例は全体から見ればごく一部にすぎない。
たとえば、数千件の不正受給が報じられると、制度全体が不正に利用されているような印象を持つ。
だが、受給者全体は数百万人規模であり、その割合はごくわずかである。
人間の認知は、頻度ではなく「印象の強さ」に影響される。
そのため、実際には横ばいであっても、増えているように感じるのである。
生活保護の中心は誰なのか?──実態は「高齢者の生活保障」である
生活保護受給者の多くは働ける若者ではなく、年金だけでは生活できない高齢者である。
生活保護という言葉から、「働かずに支援を受ける人」を想像する人は少なくない。
しかし、現実の受給者構成はそれとは大きく異なる。
最も多いのは高齢者世帯である。
特に単身高齢者は、年金だけでは家賃や生活費を賄えないケースが多い。
これは制度の乱用ではなく、社会構造の問題に近い。
高度成長期以前に非正規や自営業で働いていた人は、年金額が少ない。
結果として、老後に生活保護に頼らざるを得ない状況になる。
生活保護は「失業者の制度」というより、「高齢化社会の最後の安全網」なのである。
なぜ働いても生活保護が必要になるのか?──低賃金と不安定雇用が原因である
生活保護は無職の人だけでなく、働いていても生活が成り立たない人の支えにもなっている。
現代の日本では、「働いている=生活できる」とは限らない。
非正規雇用や低賃金労働の増加により、収入が生活費を下回るケースが存在する。
特に都市部では、家賃の高さが生活を圧迫する。
フルタイムに近い労働をしていても、手取りは月15万円程度という例は珍しくない。
ここから家賃、光熱費、食費を支払えば、余裕はほとんど残らない。
生活保護はこうした「ワーキングプア」にとっても重要な支援となっている。
これは制度の問題ではなく、労働市場の構造の問題である。
なぜ受給者が減らないのか?──社会の高齢化が最大の理由である
生活保護が減らない最大の理由は、不正受給ではなく急速な高齢化である。
日本は世界でも最も高齢化が進んだ国の一つである。
高齢者が増えれば、当然、生活困難に陥る人も増える。
これは自然な人口構造の変化である。
一方で、若年層の受給は大きく増えているわけではない。
つまり、生活保護の規模は「制度の乱用」ではなく、「人口構成の変化」によって説明できる。
制度の問題として語られがちだが、実際には社会の変化の結果なのである。
本当に問題なのは生活保護なのか?──問題の本質は「制度の前段階」にある
生活保護の問題の多くは、制度そのものではなく、そこに至るまでの社会構造にある。
生活保護は「最後の安全網」である。
つまり、そこに至るまでに多くの段階が存在する。
本来であれば、
・安定した雇用
・十分な賃金
・適切な年金
・家族や地域の支援
といった仕組みが機能していれば、生活保護に頼る必要はない。
しかし、これらの仕組みが弱まった結果、生活保護の役割が大きくなっている。
問題は制度の存在ではなく、制度が必要になる社会の状態なのである。
なぜ生活保護は誤解されやすいのか?──見えない制度であることが原因である
生活保護は身近に存在していても、実際の姿が見えにくいため誤解されやすい。
生活保護は、誰でも日常的に接する制度ではない。
受給者は目立たず、静かに生活している。
そのため、制度の実態は一般には見えにくい。
一方で、例外的な事例だけが報道される。
この結果、「普通の受給者」の姿は見えず、「問題のある事例」だけが記憶に残る。
制度の実態と社会の認識の間には、大きな隔たりが存在する。
生活保護は増えすぎているのか?──本質は「社会の鏡」である
生活保護は増えすぎている制度ではなく、社会の弱点を映し出す鏡である。
生活保護の存在は、社会の問題を示している。
それは高齢化であり、低賃金であり、雇用の不安定さである。
制度を批判することは簡単である。
しかし、制度が必要になる原因は社会の構造にある。
生活保護は社会の失敗の証ではなく、社会の最後の防波堤である。
この制度があることで、多くの人が最低限の生活を維持できている。
重要なのは、「増えているかどうか」ではない。
なぜ必要とされているのかを理解することなのである。
