“増税国家ニッポン”を問う 第4回

なぜ消費税だけが「下げられない」のか?

近年の日本社会では、所得税や法人税に比べ、消費税の減税議論が異様に封じられていることに気づく人は多いだろう。政治家が「一時的に消費税率を下げるべきだ」と発言すると、すぐに財務省や主流メディアから「財政が持たない」「社会保障費が増大する」という反論が浴びせられる。
だが本当にそうだろうか。経済学的には消費税の逆進性や景気への悪影響が長年指摘されてきた。それでもなお、財務省にとって消費税が「最も手放したくない税」であり続ける理由は何なのか。本稿では、その構造と論理を掘り下げる。

Q1. なぜ財務省は「消費税が安定財源だ」と強調するのか?

財務省が繰り返す言葉に「安定財源」というものがある。

  • 所得税や法人税は景気に左右される。不況期には企業収益も個人所得も減るため、税収は落ち込む。
  • 一方で消費税は景気に対して比較的安定している。国民が最低限の消費を続ける限り、一定の税収が見込める。

この「安定性」が財務省にとって最大の魅力だ。なぜなら、毎年予算編成を行う財務省にとって、確実に見込める税収こそが官僚支配の基盤だからである。

しかも消費税は「広く薄く」課税するため、個別の抵抗が弱い。所得税増税のように富裕層からの強い反発を受けにくく、法人税のように企業からのロビー活動も限定的だ。結果として、政治的に最も上げやすい税金となる。

Q2. 消費税の真の利権構造とは何か?

「利権」と聞くと公共事業や補助金を連想する人が多い。しかし消費税にも独自の利権構造が存在する。

  1. 財務官僚の権限強化
    消費税は国税庁を通じて広範に徴収されるため、財務省が税制設計・運用を独占できる。結果として、予算編成権と税制支配の二重構造が盤石になる。
  2. 社会保障とのリンク
    「消費税は社会保障財源」という枠組みを確立することで、下げられない“聖域”を作り上げた。実際には一般会計に組み込まれているため用途は柔軟だが、建前としての「福祉目的税」が政治的盾になる。
  3. 再分配機能の形骸化
    所得税や法人税を減らし、消費税を中心に据えると、再分配機能が弱まり、富裕層や大企業に有利な税制が完成する。これこそが経団連や大手企業にとっての“利権”であり、財務省と利益が一致する。

Q3. なぜ「逆進性」という最大の問題が無視されるのか?

消費税は低所得層ほど負担割合が大きい「逆進性」を持つ。たとえば年収200万円の世帯が生活費の大半を消費に回す場合、消費税負担は所得の約10%に達する。一方、年収2000万円の世帯では同じ支出でも負担割合は数%にとどまる。

それにもかかわらず、財務省は「社会保障のため」という言葉で批判を封じる。逆進性を軽減する「軽減税率」や「給付付き税額控除」も導入されたが、制度は複雑化し、行政コストを増大させるだけだった。

ここに財務省の論理がある。制度を複雑にするほど、官僚がコントロールできる領域が広がるのだ。シンプルな減税は、彼らにとって権限縮小を意味する。

Q4. 消費税減税は本当に「財政破綻」を招くのか?

財務省が必ず持ち出すのが「国の借金」論だ。だが一次資料を見ると、そのロジックは単純ではない。

  • 日本の国債の約9割は国内で消化されており、対外依存度は低い。
  • 日銀が国債を大量に保有しており、実質的には政府内取引に近い。

この状況で「破綻」という表現を使うのは誇張だ。実際、消費税率を5%から8%に引き上げた2014年、景気は急速に冷え込み、名目税収は伸び悩んだ。短期的には税収が増えても、長期的には経済縮小で逆効果になる可能性が高い。

財務省は「安定財源」を口実にするが、経済学的にはむしろ成長を阻害する税制こそ不安定要因と言える。

Q5. 他国はどうしているのか?

欧州諸国も付加価値税(VAT)を導入しているが、日本との違いは「還付制度」や「社会保障との明確なリンク」が整備されている点だ。たとえば北欧では消費税率が高い一方、医療・教育・福祉が実質無償で提供されるため、国民の受益感がある。

しかし日本では、増税されても医療費自己負担や年金水準は削られていく。つまり負担増と給付減が同時進行している。この不信感が「なぜ下げられないのか」という疑念を強めている。

消費税は「財務省支配の象徴」である

以上を総合すると、消費税が下げられない理由は単純だ。

  • 安定財源として官僚支配を維持できる
  • 社会保障の名を借りて「聖域化」できる
  • 制度の複雑化によって権限を拡張できる
  • 富裕層や大企業と利害が一致する

つまり消費税は、財務省にとって単なる税制ではなく、支配装置そのものなのである。

「国民のための税」ではなく「財務省のための税」として機能している限り、減税論議は封殺され続けるだろう。私たちが問うべきは、財政の数字ではなく、その背後にある権力構造である。

未来に向けた問い

いま日本に必要なのは、「増税か減税か」という単純な議論ではない。誰のために税制が設計されているのかを直視することだ。消費税を下げられないのは、本当に財政のためか。それとも、財務省の権力維持のためか。
この問いに向き合うことこそ、民主主義国家として避けて通れない課題なのである。