定年後も働く人は、これからどこまで増えるのでしょうか。結論からいえば、働く高齢者は当面増える可能性が高いものの、これは公的年金が不要になることを意味しません。本稿では、最新の就業統計や年金制度の改正を基に、老後の所得、企業の課題、人生100年社会に必要な働き方を解説します。

働く高齢者は当面さらに増える可能性が高い

高齢者人口の増加、就業意欲、人手不足、雇用制度の整備が重なるため、高齢者の就業は今後も広がる可能性が高いと考えられます。

内閣府「令和8年版高齢社会白書」によると、2025年の65歳以上の就業者数は、65~69歳が392万人、70~74歳が284万人、75歳以上が266万人でした。合計すると942万人となり、65歳以上の就業者数は22年連続で前年を上回っています。

就業率も上昇傾向にあります。2025年は65~69歳が54.5%、70~74歳が36.2%、75歳以上でも12.6%となり、「65歳を過ぎたら働かない」という従来の区切りは、すでに実態と合わなくなりつつあります。

65~69歳では「働く人」が過半数になった

特に重要なのは、65~69歳の就業率が過半数に達していることです。公的年金を受け取り始める年齢と、仕事から完全に離れる年齢が一致しない人が増えています。

ただし、就業者数が今後も永久に増え続けるとは限りません。高齢者人口そのものが将来減少に転じれば、就業率が上昇しても働く高齢者の絶対数は頭打ちになる可能性があるためです。

少なくとも2040年ごろまでは、次の要因が就業拡大を後押しするとみられます。

  • 65歳以上人口がなお増加する
  • 健康で働ける期間が延びる
  • 人手不足の職場が高齢者を必要とする
  • 65歳以降の雇用制度が企業に広がる
  • 生活費や将来不安から収入を求める人がいる

厚生労働省「高年齢者等職業安定対策基本方針」は、65歳以上人口が2020年の約3603万人から2040年には約3928万人になるとの推計を示しています。したがって、「働く高齢者の割合」だけでなく、社会を構成する高齢者の母数も当面大きい状態が続きます。

高齢者が働く理由は生活費だけなのか?

高齢期の就労には、収入の確保に加え、健康維持、社会とのつながり、知識や経験を生かす目的があります。

「年金では足りないから働く」という説明には現実の一面がありますが、それだけでは全体像を捉えられません。働き続ける理由は、家計、健康状態、家族構成、仕事への満足度によって大きく異なります。

内閣府「高齢社会対策総合調査(高齢者の生活と意識に関する国際比較調査)」では、2025年に日本の60歳以上の回答者の39.0%が、今後も収入を伴う仕事をしたいと答えました。働きたい人に理由を尋ねると、「収入がほしい」が48.2%で最も多く、「働くのは体によい、老化を防ぐ」が25.1%で続いています。

「必要だから」と「働きたいから」は重なっている

高齢期の就労理由は、次のように整理できます。

  • 生活費や医療・介護費に備えるため
  • 貯蓄の取り崩しを抑えるため
  • 生活のリズムや健康を保つため
  • 職場や地域とのつながりを維持するため
  • 長年培った技術や知識を生かすため

これらは互いに排他的ではありません。収入が必要で働き始めた人が、同僚との交流や顧客からの感謝に価値を感じることもあれば、仕事が好きな人にとっても賃金は重要です。

一方、働かない選択も同じように尊重される必要があります。健康上の制約、家族の介護、希望する仕事の不足などを無視して、「元気なら働くのが当然」と考えることは、人生100年社会の理念とは相いれません。

「年金時代の終わり」とは何を意味するのか?

終わりつつあるのは公的年金そのものではなく、「一定年齢で一斉に引退し、その後は年金だけで暮らす」という単線型の老後モデルです。

公的年金は今後も高齢期の所得保障の土台です。厚生労働省「2024年国民生活基礎調査」によると、2023年の所得について、公的年金・恩給を受給する高齢者世帯の43.4%は、それが総所得のすべてを占めていました。

この数字からも、「年金時代が終わり、全員が働いて生活する」と捉えるのは適切ではありません。働けない人を含め、終身で受け取れる公的年金の役割はむしろ大きくなります。

変化しているのは、高齢期の所得を一つの制度だけに任せる発想です。これからは公的年金を中心に、就労収入、企業年金、個人の貯蓄などを、それぞれの事情に合わせて組み合わせる人が増えるでしょう。

在職老齢年金も「働きながら受け取る」方向へ

在職老齢年金とは、厚生年金を受け取りながら働く人について、賃金と老齢厚生年金の合計が一定額を超えた場合に年金の一部を支給停止する仕組みです。2025年に成立した年金制度改正法により、支給停止の基準額は2026年4月から月額65万円に引き上げられました。

改正の目的は、年金の減額を避けるために労働時間を抑える動きを減らし、働きたい人が働きやすくすることです。ただし、老齢基礎年金は在職老齢年金による支給停止の対象ではなく、老齢厚生年金についても実際の調整額は個人ごとに異なります。

65歳から70歳への雇用延長は進むのか?

65歳までの雇用確保はほぼ定着しましたが、70歳まで働ける環境は企業間の差がなお大きい状態です。

高年齢者雇用安定法では、企業に対し、定年の廃止、65歳までの定年引き上げ、継続雇用制度の導入のいずれかを義務付けています。70歳までについては、雇用に加えて業務委託や社会貢献事業も含む就業機会の確保が努力義務です。

厚生労働省「2025年高年齢者雇用状況等報告」では、従業員21人以上の企業のうち、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%でした。一方、70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は34.8%にとどまっています。

再雇用できれば問題が解決するわけではない

制度上働けることと、納得して働けることは別問題です。2025年の労働力調査では、役員を除く雇用者のうち非正規雇用の割合は、男性が55~59歳の10.5%から65~69歳では64.9%へ上昇し、女性は65~69歳で83.7%でした。

再雇用によって仕事内容がほとんど変わらないのに、賃金や役割だけが大きく下がれば、意欲や技能継承を損ないます。企業には「何歳まで雇うか」だけでなく、職務、責任、勤務時間、賃金をどう対応させるかが問われます。

高齢者就業の本当の課題は仕事の「量」より「質」である

人生100年社会に必要なのは、高齢者を一律に長く働かせることではなく、健康と能力に応じて働き方を調整できる職場です。

働く人が増えれば、安全対策の重要性も高まります。厚生労働省の基本方針によると、2024年は雇用者全体に占める60歳以上の割合が19.1%だったのに対し、休業4日以上の労働災害による死傷者に占める割合は30.0%でした。

高齢者本人の注意だけに責任を負わせても、事故は防げません。照明や床、作業台の改善、重量物の機械化、休憩時間の確保、体力や健康状態に応じた配置など、仕事そのものを設計し直す必要があります。

働き続けやすい職場には、次の条件が求められます。

  • 短時間勤務や週数日の勤務を選べる
  • 通院や介護と両立できる
  • 身体的な負担を減らす設備がある
  • 経験を生かせる役割と適正な賃金がある
  • デジタル研修や学び直しの機会がある

こうした仕組みは高齢者だけの特別扱いではありません。育児中の人、治療を続ける人、障害のある人などにも働きやすく、結果として職場全体の人材定着につながります。

人生100年社会では何を準備すべきなのか?

個人には所得源と働き方の選択肢を増やす準備が、企業には年齢ではなく職務と能力を基準にする雇用管理が必要です。

個人の側では、「何歳までフルタイムで働くか」だけを決めても十分ではありません。生活費、年金見込み額、健康状態、家族の介護、仕事に求める意味を分けて考えると、自分に合う働き方が見えやすくなります。

準備したいポイントは次の通りです。

  • ねんきん定期便などで受給見込み額を確認する
  • 生活費を固定費と変動費に分けて把握する
  • 50代以前から技能の更新や学び直しを続ける
  • フルタイム以外の働き方も試す
  • 働けなくなった場合の家計も想定する

重要なのは、老後を「就労」か「引退」かの二者択一にしないことです。週に数日だけ働く、繁忙期だけ経験を提供する、地域活動と有償の仕事を組み合わせるなど、働く量を段階的に変えられる社会が現実的でしょう。

企業にとっても、高齢者雇用は単なる人手不足対策ではありません。熟練者の暗黙知を手順書や研修に変え、若手へ引き継ぐ機会にできれば、高齢者の雇用と組織の生産性を両立できます。

まとめ

働く高齢者は当面増える可能性が高いものの、目指すべきは「生涯働かなければ暮らせない社会」ではなく、「希望と状態に応じて働き続けられる社会」です。

65歳以上の就業はすでに例外ではなくなり、雇用制度や在職老齢年金も長期就労を支える方向へ動いています。一方で、非正規雇用の多さ、処遇の低下、労働災害、学び直しの不足といった課題は残ります。

「年金時代の終わり」とは、公的年金の終わりではありません。年金を生活の土台としながら、就労、貯蓄、社会参加を柔軟に組み合わせる時代への転換であり、働かない自由と働けない人への保障も同時に守ることが、人生100年社会の条件です。

主な参考資料

  • 内閣府「令和8年版高齢社会白書」就業・所得(2026年、主に2025年労働力調査)
  • 内閣府「令和8年版高齢社会白書」就労について(2026年、2025年調査)
  • 厚生労働省「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」(2025年6月1日時点)
  • 厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」(2026年4月施行)
  • 厚生労働省「高年齢者等職業安定対策基本方針」(対象期間2026~2029年度)
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」