若者は本当にブランド品を欲しがらなくなったのでしょうか。結論からいえば、ブランドへの関心が消えたのではなく、商品を所有して豊かさを示す価値観から、自分らしい体験や時間にお金を使う価値観へと重心が移っています。本記事では、経済環境、SNS、中古市場、体験消費の広がりから、若者の消費意識の変化を読み解きます。

若者はブランド品そのものを嫌っているのか?

若者のブランド離れとは、ブランド品を全面的に否定する動きではなく、ブランド名だけを理由に高額商品を所有する必要性が薄れた現象です。

かつて高級ブランドのバッグや腕時計、自動車は、経済力や社会的成功を目に見える形で示す道具でした。誰が見ても価値が分かる商品を持つことが、本人の地位や生活水準を説明する役割を果たしていたのです。

しかし現在の若者は、ブランドの知名度だけでは購入を決めません。デザイン、品質、機能、企業の姿勢、将来売却できるかどうかまで比較し、自分にとって納得できる価値があるかを判断します。

若者のブランド品に対する姿勢は、主に次のように変化しています。

  • 有名ブランドだから買うのではなく、自分に合うかで選ぶ
  • 新品にこだわらず、中古品やレンタルも利用する
  • 所有することより、使用する場面や体験を重視する
  • 他人に見せるためではなく、自分の満足を基準にする

つまり、ブランドへの憧れが消えたというより、ブランドに無条件で従わなくなったと考える方が実態に近いでしょう。消費者とブランドの力関係が変わり、若者が自分の基準で商品を選ぶようになったのです。

実際、若い世代は高級品市場にとって依然として重要な顧客です。一方で、Z世代の高級ブランドに対する推奨意向はミレニアル世代より低いとの分析もあり、従来型のブランド戦略が若者に響きにくくなっていることが示されています。(Bain)

なぜ「所有」が豊かさの象徴ではなくなったのか?

住宅や自動車、時計、バッグなどを所有することより、自由に使える時間や身軽さを豊かさと考える若者が増えています。

高度経済成長期からバブル期にかけては、所得の上昇とともに所有物を増やすことが豊かな生活につながると考えられていました。住宅、自動車、家電、高級品を順番に手に入れることが、人生の成功モデルとして広く共有されていたのです。

現在は、同じ商品や生活様式を目指す社会ではありません。働き方、家族構成、居住地、趣味が多様化し、全員が同じ高級品を欲しがる前提そのものが崩れています。

所有には見えにくい負担がある

商品を所有すれば、購入代金だけでなく、保管、維持、修理、買い替え、処分の負担も生じます。自動車であれば駐車場代や保険料、住宅であればローンや管理費、高級時計であれば定期的なメンテナンスが必要です。

若者は、こうした所有後の負担も含めて費用を考える傾向があります。必要なときだけ利用できるサービスが増えたことで、「持たなくても困らない」という選択肢が現実的になりました。

  • 音楽や映像は定額配信で楽しむ
  • 自動車はカーシェアで必要なときだけ使う
  • 洋服やバッグはレンタルする
  • 家具や家電を付属した住居を選ぶ
  • 使用頻度の低い物はフリマアプリで売る

これらは単なる節約ではありません。物を減らし、固定費を抑え、環境や仕事の変化に合わせて生活を変えられること自体が、新しい豊かさになっているのです。

若者が「体験」にお金を使うのはなぜか?

旅行、ライブ、飲食、学び、趣味などの体験は、記憶や人間関係、自己成長につながり、所有物よりも自分らしさを実感しやすいからです。

体験消費とは、物品の購入ではなく、旅行、イベント、スポーツ、食事、文化活動、学習など、時間を通じて得られる経験にお金を使う消費行動です。商品が手元に残らなくても、その経験から得た感情や記憶には価値があると考えます。

高級バッグを一つ買う代わりに海外旅行へ行く、腕時計を買う代わりに好きなアーティストの公演へ通うといった選択は、その代表例です。本人にとって重要なのは、何を持っているかではなく、何を経験し、誰と時間を共有したかになっています。

世界の高級品市場でも、商品より体験を優先する流れが確認されています。ベイン・アンド・カンパニーによると、2025年には高級品そのものの市場が伸び悩む一方、高級旅行やウェルネスなどの体験型分野は成長を続けました。(Bain)

体験は自分の物語になる

所有物は同じ商品を購入すれば、基本的には誰でも同じものを持てます。一方、旅先で起きた出来事やライブで感じた高揚感、友人と過ごした時間は、一人ひとり異なる物語として残ります。

若者が体験を重視する背景には、商品そのものより、自分の人生にどのような意味を加えるかを重視する意識があります。体験は記憶だけでなく、新しい人間関係、知識、技能、価値観を得る機会にもなるからです。

ただし、「若者は物を買わず、体験だけを買う」と単純化するのは正確ではありません。体験を豊かにするスマートフォン、カメラ、アウトドア用品、推し活グッズなどには積極的に支出するため、物と体験は対立するものではなく、組み合わされるようになっています。

SNSはブランド品の価値を下げたのか?

SNSはブランド品への憧れを広げる一方、価格や評判、代替商品も可視化し、ブランドの権威を相対化しました。

テレビや雑誌が消費の中心だった時代には、芸能人やモデルが身につけた商品を多くの人が一方向に見る構造でした。露出できるブランドが限られていたため、知名度そのものが希少性と信頼につながっていたのです。

SNSでは、高級ブランドだけでなく、無名ブランド、個人作家、古着、低価格商品まで同じ画面に並びます。価格の高い商品より、珍しい商品や自分らしい組み合わせの方が評価されることもあります。

若者は購入前に、次のような情報を横断的に確認します。

  • SNS上の着用写真や動画
  • 一般利用者による口コミ
  • 商品の原価や品質に関する解説
  • 類似品との価格比較
  • 中古市場での取引価格
  • 企業の環境・労働問題への対応

情報量が増えた結果、広告だけでブランド価値を維持することは難しくなりました。高額な価格に見合う品質や背景を説明できなければ、「有名だから高いだけではないか」と疑われます。

同時に、SNSは体験の価値を高めました。旅行、食事、イベント、趣味の成果は写真や動画で共有しやすく、そこから会話や人間関係が生まれるため、体験が社会的なコミュニケーション資産にもなっているのです。

博報堂の研究でも、現代の生活者は情報収集と消費を明確に分けず、「行ってみた」「やってみた」という行動によって自己充足を図る傾向が指摘されています。所有や購買だけでは説明できない消費行動が広がっているといえるでしょう。(博報堂 HAKUHODO Inc.)

中古品やフリマアプリは消費をどう変えたのか?

中古市場の普及により、ブランド品は一生所有する財産ではなく、必要な期間だけ使い、再び市場へ戻す商品へと変わりました。

以前の中古品には、「新品を買えない人が選ぶもの」という否定的な印象がありました。しかし、フリマアプリや専門店が普及し、価格や商品の状態を簡単に比較できるようになったことで、中古品は合理的な選択肢として定着しています。

新品で高額商品を購入する場合でも、若者は将来の売却価格を考えます。購入価格から売却価格を差し引いた実質的な使用料で商品を捉えれば、ブランド品も固定された所有物ではなく、一時的に利用する資産になります。

博報堂生活総合研究所の2025年調査では、「物を手放すと新しい物が欲しくなる」「中古品として売れたお金で買い物をしたくなる」という回答が2019年より増加しました。同研究所は、売却と購入が循環する消費を「対流消費」と表現しています。(博報堂 HAKUHODO Inc.)

中古品は「自分らしさ」を探す市場になった

中古市場では、現在は販売されていない商品や過去の限定品、他人と重なりにくいデザインも見つけられます。若者にとって中古品は、安く買うためだけでなく、個性をつくるための選択肢でもあります。

マッキンゼーの調査でも、35歳未満の消費者は、上の世代より「自分だけの個性」を理由に中古ファッションを選ぶ傾向が強いとされています。中古市場は節約と自己表現を同時に実現する場になっているのです。(McKinsey & Company)

若い世代は、新品と中古、購入と売却、所有と利用を柔軟に行き来しています。「一度買ったら長く持つ」という従来の消費モデルから、「価値がある間に使い、次の人へ渡す」という循環型の消費モデルへ変わりつつあります。

経済的な事情だけでブランド品離れは説明できるのか?

物価上昇や将来不安は重要な要因ですが、若者の変化を単なる「お金がないから」で説明することはできません。

高級ブランド品の価格は近年上昇し、若年層にとって購入のハードルが高くなっています。住居費、通信費、教育費、社会保険料などの負担を考えれば、使えるお金を慎重に配分するのは当然です。

高級品市場の成長も、販売数量だけでなく値上げに支えられてきました。マッキンゼーは、2021年から2023年における高級品市場の成長の大部分が価格上昇によるものだったと分析しています。(McKinsey & Company)

しかし、若者が趣味、旅行、ライブ、美容、ゲーム、推し活などにまとまった金額を使う例は珍しくありません。使えるお金が完全になくなったのではなく、「支払う価値がある対象」の優先順位が変わったのです。

若者の消費には、一見すると矛盾する行動が同居しています。

  • 日常着は低価格品や古着で済ませる
  • 特定の趣味には高額を投入する
  • 高級品を中古で購入する
  • 旅行先では良い宿や食事を選ぶ
  • 物は減らす一方、推し活グッズは集める

このような行動は、若者の消費が均等ではなくなったことを示しています。あらゆる分野で少しずつ豊かさを求めるのではなく、自分にとって重要な分野へ集中的に支出する「選択的なぜいたく」が広がっているのです。

これからブランドに求められる価値とは何か?

これからのブランドには、知名度や価格だけでなく、品質、体験、共感、修理、再販売まで含めた長期的な価値設計が求められます。

若者がブランド品を買わなくなったのではなく、ブランド名だけでは買わなくなったとすれば、企業が取り戻すべきものは広告露出ではなく、購入する理由です。

商品の背景や職人技、素材、耐久性を分かりやすく伝えることは、その一つです。修理やメンテナンス、中古品の買い取り、公式リセールまで用意すれば、購入後も価値が続くブランドとして評価されやすくなります。

今後、特に重要になる要素は次の通りです。

  • 長く使える品質と修理体制
  • 価格に見合う明確な理由
  • 店舗やイベントで得られる特別な体験
  • 中古販売を含む循環型の仕組み
  • 消費者が共感できる物語や姿勢
  • 他人と同じにならない選択肢

高級時計の分野では、ミレニアル世代とZ世代の40%が今後1年以内に中古時計を購入する可能性があるとの調査もあります。新品だけを販売する企業より、認定中古品や修理を含めて価値を維持する企業の方が、若者との接点を持ちやすくなるでしょう。(Deloitte)

ブランドの役割は、所有者の地位を証明することから、その人の体験や価値観を支えることへ変わります。商品を売って関係を終えるのではなく、使う時間や手放す場面まで設計できるブランドが選ばれる時代です。

まとめ

若者がブランド品に執着しなくなった最大の理由は、豊かさの基準が「何を持っているか」から「どのような時間を過ごしているか」へ移ったことです。

背景には、将来への経済的不安だけでなく、SNSによる情報の透明化、サブスクリプションやレンタルの普及、中古市場の拡大、価値観の多様化があります。若者はブランドを否定しているのではなく、ブランドの知名度と価格だけで価値を判断しなくなりました。

現在の消費を理解するポイントは、次の四つです。

  • 所有よりも自由な時間や身軽さを重視する
  • 体験を記憶、成長、人間関係への投資と考える
  • 新品、中古、レンタルを目的に応じて使い分ける
  • 自分にとって意味のある分野へ支出を集中する

若者の消費は縮小したのではなく、選別が厳しくなったと考えるべきでしょう。高い商品でも、人生を豊かにする理由が伝われば選ばれますが、ブランド名だけを掲げた商品は、以前ほど強い魅力を持ちません。

「所有から体験へ」という変化は、物が不要になることを意味しません。物は、所有すること自体が目的ではなく、体験を生み、自分らしい人生を支える手段として選ばれるようになったのです。