なぜ今、地方空港が「乱立」と呼ばれるのか?

日本には現在、公共用空港が97存在する。この数は国土の広さを考えると世界的にみても多い部類であり、人口規模に対して空港密度が極めて高い国と言える。背景には高度経済成長期の「地域振興としての空港建設」、そして2000年代以降の「観光立国」政策によるインバウンド需要の取り込みがある。

しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響で地方空港の利用者数は一気に落ち込み、多くの空港が赤字運営に転落した。現在は回復基調にあるものの、全てが黒字化したわけではない。

この状況を前に、「地方空港は本当に必要なのか」「乱立が自治体財政を圧迫しているのではないか」という疑問が再び浮上している。本稿は、一次データ・財務資料・利用者統計をもとに、地方空港の実態を多角的に分析する。

地方空港の利用状況──“使われていない空港”は実際いくつあるのか?

●年間利用者数30万人以下の空港は何を意味する?

国交省「空港管理状況調書」によれば、地方空港のうち年間利用者数30万人以下は15以上存在する。この規模は、1日あたりの利用者が800人未満であり、便数も限定される。

年間利用者10万人規模となると、実質的には1日数便しか飛ばない空港も多く、運営費を賄えるほどの収入は得られない。

例えば、

  • 利用者数10万~30万人:地方有力路線が細々と維持されるレベル
  • 利用者数10万人未満:定期便維持すら困難で、補助金依存度が高いレベル

これは事実として認識しておくべきで、観光需要だけでは維持できない空港が存在していることを示している。

●赤字額の増大──自治体財政の見えない負担

地方自治体が公表する決算資料を見ると、空港運営費は年間数億円単位で赤字となるケースが珍しくない。滑走路維持費、消防体制、照明設備など航空法上必要な設備の維持には最低でも年間数億円が必要となるためだ。

観光客が増えても、着陸料・施設使用料で回収できる金額は限界がある。つまり、
“空港は利用者が多少増えても赤字は減らない構造”
になっている。

なぜ地方空港は乱立したのか──国と自治体の「思惑」がずれた結果?

●自治体の論理:“空港建設=地域振興”という方程式

1980〜2000年代の自治体政策では、空港建設は「地域に人を呼ぶ象徴的インフラ」として扱われた。

  • 大企業の工場誘致
  • 観光客の呼び込み
  • 東京とのアクセス改善
    これらを名目に、多くの自治体が空港新設に動いた。

しかし実際には、空港が完成しても航空会社が撤退したり、便数が維持できない地域が多く、空港と地域振興の因果関係は必ずしも成立していない。

●国の論理:地方の“航空ネットワーク確保”

国としては、地方への交通インフラを整えることが政策的に重視された。地方衰退を抑えるため、航空路線維持は「公共性」の名の下に支援され続けてきた。

結果として、
国=空港配置の最適化(広域圏としてのネットワーク)
地方=地元空港の存続(自治体のメンツと経済効果)
という構図が生まれ、空港が増えすぎた側面がある。

インバウンド需要で地方空港は救えるのか?

●訪日客の実態は“都市集中型”

観光庁データによれば、訪日客の約 70%以上が東京・大阪・北海道に集中 している。
つまり、地方空港が外国人を直接呼び込むには非常に高いハードルがある。

LCC需要が伸びているとはいえ、
「外国人がわざわざ来る理由が明確な地域のみ成功している」
という現実がある。
代表例は、国際便を積極誘致した新千歳・福岡・那覇などだ。

●“観光の力”だけでは維持できない理由

観光需要は季節・世界情勢・航空会社の経営方針に左右されるため、継続性や安定性に欠ける。
地方空港にとって致命的なのは、

  • 便が減れば利用者が減る
  • 利用者が減れば便が減る
    という負のスパイラルである。

インバウンド頼みで空港を維持するのは、15~30万人規模の地方空港では難しいのが現実だ。

財政負担のジレンマ──自治体にとって空港は「やめられない負債」?

●空港は一度作れば“撤退できないインフラ”

空港の運営は自治体にとって固定費が極めて重い。

  • 消防・保安体制:航空法で必須
  • 滑走路維持費:雑草管理・舗装補修など毎年必要
  • 照明設備:夜間・悪天候対応で常時管理

これらは利用者の多少に関係なく必要で、航空会社が撤退しても支出は続く。
つまり、空港は撤退コストの極めて高い公共インフラである。

●“空港があるから赤字、ではなく、ある限り赤字が続く構造”

自治体の悩みは、「空港を閉鎖すれば地域衰退を認める形になる」という政治的事情も影響している。選挙や地元企業の利害も絡むため、赤字でも簡単には手放せない。

その結果、多くの自治体が「赤字を抱えたまま空港維持」を続けるジレンマに陥る。

地方空港は本当に必要か──代替案はどこにある?

●(1)“空港単体”ではなく“広域圏”で統合的に考えるべき

例えば、九州の場合、

  • 福岡
  • 北九州
  • 熊本
  • 大分
  • 佐賀
  • 長崎
  • 鹿児島

これらの空港は車で2〜3時間圏に複数存在し、国際線の役割分担が実質的に行われていない。広域圏で合理化すれば、少なくとも国際線は効率化できる。

●(2)幹線はハブ空港に集約し、地方は“アクセス向上”に投資する

地方空港を維持するより、

  • 高速道路整備
  • 鉄道アクセス改善
    に投資したほうが総合的に地域の利便性は上がるケースも多い。

空港の距離が近くても、高速道路が貧弱な地域では移動時間がかかり、空港のメリットが削がれる。

●(3)観光資源を磨くことが空港維持より優先

空港があるから人が来るのではなく、
人が来る理由があるから空港需要が生まれる。
本末転倒になっている自治体は多い。

地域が魅力を磨き、アクセス改善とセットで観光動線を整えることが最重要である。

地方空港は「誰のため」なのか?──残す空港と見直す空港の線引きを

地方空港が乱立した背景には、

  • 自治体の地域振興願望
  • 国の交通政策
  • 観光立国戦略の期待値の高さ
    という複数要因が絡んでいる。

しかし、現状を見る限り、
「空港を維持すること」そのものが目的化している地域も少なくない。

必要なのは、

  • 利用実態の厳格な評価
  • 財政負担の可視化
  • ハブ空港中心の広域最適化0707
  • 観光動線の再構築

そして、何より重要なのは、
“空港が本当に地域住民の利益につながっているのか?”
という原点に立ち返ることだ。

空港は象徴的なインフラであり、地域の誇りにもなる。しかし、その裏側で続く財政負担や空港維持の硬直性を見過ごせば、未来の世代に重いツケを残すことになる。

地方空港の議論は、「乱立しているかどうか」ではなく、
“どの空港を本気で活かし、どの空港を見直すか”
という現実的な選択の時代に入っている。