大学を卒業するとき、奨学金の返還も始まる。学ぶために必要だった費用を、社会に出たばかりの本人が引き受けるのは当然なのだろうか。教育は本人の将来に役立つ一方、社会を支える人材を育てる営みでもある。給付型と貸与型の違い、学生生活にかかる費用、返還を支える制度を確認しながら、国・家庭・大学・企業が費用をどう分担できるか考える。
学びの費用は誰が負担すべきなのか?
高等教育の費用は本人だけに負わせず、国・家庭・大学・企業がそれぞれの役割に応じて分担すべきである。
学んだ知識や資格は、まず本人の人生を支える。だから、本人が進路と費用を考え、一定の負担を担うことには理由がある。しかし、その学びを生かして働く人は、企業や地域、社会全体も支えていく。
家庭の経済力だけで進学先や学び方が決まれば、能力や意欲を生かす機会は狭まる。国による支援には、進学の入口にある格差を和らげる役割がある。大学にも、学費の設定や独自の支援を通じて、学生が学び続けられる環境を整える責任がある。
費用の分担は、誰か一者がすべて払うかどうかという二択ではない。次のように、負担する時期と方法を分けて考えられる。
- 国は、給付型奨学金や授業料減免で、進学時の負担を抑える。
- 家庭と本人は、支払える範囲と卒業後の見通しを踏まえて負担する。
- 大学は、独自の減免や支援制度を用意し、学生が利用しやすくする。
- 企業は、採用後の奨学金返還支援などを通じて費用を分担する。
大切なのは、支援を増やした結果として何が変わるかである。入学時に必要な資金が足りるか、在学中に学ぶ時間を確保できるか、卒業後に無理なく生活を始められるか。費用の議論には、これらを一続きの問題として見る視点が欠かせない。
「奨学金を受けた学生」は全員が借金を負うのか?
奨学金には返還不要の給付型と返還が必要な貸与型があり、受給者数をそのまま卒業後の返還者数とは読めない。
日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金には、無利子の第一種と有利子の第二種がある。一方、給付型奨学金は原則として返還を要しない。同じ「奨学金」という名前でも、卒業後の家計に与える影響は異なる。
JASSOが2026年に公表した「令和6年度学生生活調査結果」によると、2024年度に何らかの奨学金を受給していた大学学部昼間部の学生は51.1%だった。この数字には、JASSO以外の制度も含め、給付型と貸与型の両方が含まれる。「大学生の半数が借金をしている」という意味ではない。
ただし、貸与型を利用する学生にとっては、受け取った額が将来の返還額につながる。申込時に月々の受取額だけを見ると、卒業時の総額や返還期間を実感しにくい。制度を選ぶ際には、支援を受けられるかに加え、返す必要があるかを最初に確かめたい。
「借りられる額」と「必要な額」は違う
例えば、毎月の生活費に備えて貸与額を増やせば、在学中の不安は和らぐかもしれない。その一方で、卒業後に返す総額も増える。借りる前に学費と生活費を分け、家庭からの支援、給付型奨学金、アルバイト収入などを見込んで、不足分を確かめることが重要だ。
反対に、返還を恐れて必要な額まで削れば、学業に充てる時間を確保できなくなるおそれもある。無理に借入れを減らすことだけが正解ではない。卒業後の負担と在学中の学びを、両方守れる額を考える必要がある。
授業料以外の費用が進路を左右する理由
進学に必要なのは授業料だけではなく、住まいや通学を含む学生生活全体の費用である。
JASSOの「令和6年度学生生活調査結果」では、2024年度の大学学部昼間部について、アパート等に住む学生の年間学生生活費は、自宅から通う学生より平均で約54万円高かった。学生生活費は学費と生活費を合わせた額であり、差には住居費などの生活費が大きく関わる。
同じ学部を志望しても、自宅から通える人と転居が必要な人では、用意すべき費用が変わる。進路選択を「授業料を払えるか」だけで判断すると、入学後の暮らしを支えるお金が抜け落ちてしまう。
進学前には、少なくとも次の費用を分けて見積もりたい。
- 入学金や授業料など、学校に納める費用
- 家賃、食費、光熱費など、暮らしに必要な費用
- 教材費や通学費など、学びを続けるための費用
これらを並べると、授業料の減免だけで足りるのか、生活費への支援も必要なのかが見えてくる。実家から通うという選択にも費用面の利点があるが、それによって学びたい分野や学校を諦めざるを得ないなら、支援のあり方を考える余地がある。
アルバイトで不足分を埋めるにも限界がある
働きながら学ぶ経験には意味がある。ただ、生活費の不足をすべてアルバイトで補おうとすれば、授業の準備や実習に使える時間が減る可能性がある。必要な収入と学業に充てる時間の両方を見積もることが欠かせない。
JASSOの同じ2024年度調査では、大学学部昼間部の学生のうち、調査対象期間にアルバイトを経験した人の割合は86.4%だった。この数字だけで経済的な困窮は判断できないが、学生生活を考えるうえでアルバイトを切り離せないことは分かる。
卒業後の返還は、仕事や暮らしにどう影響するのか?
貸与型奨学金の返還は毎月の支出となるため、就職後の手取り収入と生活費を合わせて考える必要がある。
卒業直後は、住まいを整えたり、仕事に必要なものを買いそろえたりする時期でもある。そこに返還が重なると、給与の額だけでは分からない家計の余裕が問題になる。同じ返還額でも、実家から通える人と住居費を自分で負う人とでは重みが違う。
返還を抱えているからといって、希望する仕事を必ず諦めるわけではない。しかし、収入が不安定な仕事への挑戦、転職、学び直しを考える際に、毎月の固定支出は判断材料になる。「返せるはず」という見込みを、卒業後の暮らしに当てはめて確かめることが大切だ。
返還が難しくなったときに確認したい制度
JASSOには、一定の条件を満たせば毎月の返還額を減らせる「減額返還制度」がある。また、経済的な理由などで返還が難しい場合には、返還期限の猶予を願い出る制度もある。いずれも申請や審査が必要で、返還そのものがなくなる制度ではない。
返還の見通しが立たなくなったら、延滞が続く前に、利用できる制度と申請条件を確認したい。収入が減った理由や現在の家計によって、適した方法は異なる。卒業時に返還予定額を把握するのと同じくらい、困ったときの相談先を知っておくことが重要である。
現行の支援制度は何を助け、何が残るのか?
公的支援は進学時の負担を軽くしてきたが、対象や支援額を確認し、残る学費・生活費も見積もる必要がある。
文部科学省の「高等教育の修学支援新制度」は、授業料・入学金の減免と、返還不要の給付型奨学金を組み合わせた制度である。2025年度からは、多子世帯の学生について、所得制限なく国が定める一定額まで授業料・入学金を減免する仕組みも導入された。
「授業料等の減免」という言葉から、進学費用のすべてがなくなると考えるのは早い。学校に納める額が減っても、教材費や家賃、食費などは残る。国の制度の対象になるかを調べたうえで、大学独自の支援も含めて、実際の不足額を計算したい。
支援制度を調べる際は、次の順番で確認すると整理しやすい。
- 返還不要の給付や授業料減免を利用できるか。
- 支援を受けた後も、学費と生活費にいくら不足するか。
- 貸与が必要なら、卒業時の総額と返還方法をどう見込むか。
制度の名称だけで判断せず、申請の時期や条件も確認する必要がある。必要な支援に届くかどうかは、制度が存在することに加え、進学前や在学中にその情報を得られるかにも左右される。
企業や大学は費用をどう分かち合えるのか?
企業による返還支援と大学による学費・生活支援を組み合わせれば、費用を本人だけに集中させない選択肢が増える。
JASSOには、企業等が従業員に代わり、奨学金の返還残額の一部または全部をJASSOへ直接送金できる「代理返還」の制度がある。企業が学びを経た人材を迎える立場から、卒業後の負担を引き受ける具体的な方法の一つだ。
大学ができることも、独自の奨学金を増やすことだけではない。入学前に必要な費用を分かりやすく示し、在学中には利用できる支援へつなぐことができる。学生が費用を理由に学びを続けられなくなる前に、相談できる環境を整える意味は大きい。
企業の返還支援は就職後に役立つ一方、進学時の資金不足を直接埋めるものではない。大学の支援も、卒業後の返還をすべて解消するわけではない。それぞれが助けられる時期を見極め、国の給付・減免制度とつなげて考える必要がある。
教育費を「本人が将来稼ぐための投資」とだけ捉えると、負担も本人に集まりやすい。社会や企業も学びの成果を受け取るのなら、費用の一部を担う理由がある。誰が利益を得るかという問いは、誰が支払うかを考える手がかりになる。
まとめ
学びの費用を考えるときは、進学時に払えるかだけでなく、在学中に学べるか、卒業後に無理なく返せるかまで見通す必要がある。
奨学金には給付型と貸与型があり、受給した学生すべてが返還を負うわけではない。一方、貸与を利用する人には、学費に加えて生活費をどう賄い、社会に出てからどう返すかという課題が残る。費用の全体像を早い段階で知ることが、進路を選ぶ助けになる。
学びの費用を本人だけに委ねないためには、国による給付と減免、家庭と本人の無理のない計画、大学の支援、企業の返還支援がそれぞれ必要だ。問われているのは、学ぶ機会を守りながら、その後の暮らしも支えられる分担の形である。
