暑さや豪雨のニュースに触れるたび、「この先も安心して暮らせるのか」と感じる若者を、心配しすぎだと言えるでしょうか。気候不安は、現実の危機と社会の対応への不信が重なる問題であり、不安を受け止め、将来を選べる条件を整えることが必要です。この記事では、研究で分かっていることと、暮らしや人生設計への影響、社会に求められる対応を解説します。
気候不安は「心配しすぎ」なのか?
気候不安とは、気候変動とその影響に対して抱く不安や恐れであり、それだけで心の病気を意味するものではありません。
猛暑や水害を知り、将来の暮らしを心配することには現実的な理由があります。問題の規模を理解するほど、自分の力では変えられないという無力感が生まれることもあるでしょう。
ここで扱う気候不安は、被災後の心理的な苦痛だけを指す言葉ではありません。直接被災していなくても、将来の被害や自然環境の変化を思い浮かべて感じる不安を含みます。
世界保健機関(WHO)が2022年に公表した政策文書は、気候変動が心の健康や心理社会的な幸福に関わる問題だとしています。気温や災害の問題を、身体の安全だけで考えることはできません。
不安の存在と生活への支障は分けて考える
環境を大切に思う気持ちや将来への懸念を、すぐに治すべき症状として扱う必要はありません。一方、眠れない、勉強や仕事に集中できないなどの支障が続く場合には、本人の負担を軽くする支援が必要です。
「危機は現実にある」と認めることと、「苦しさを一人で抱えなくてよい」と伝えることは両立します。不安を否定せず、暮らしへの影響を確かめる姿勢が出発点になります。
若者が遠い未来を信じにくいのはなぜか?
若者にとって気候変動の将来予測は、自分が生きる時間と重なるため、人生の選択に関わる問題になります。
将来の気候を説明する言葉は、大人には遠い世界の話に聞こえるかもしれません。しかし、これから働き、住まいを選び、家族について考える人にとっては、自分の生活を置く場所の説明でもあります。
学びたい仕事を続けられるのか、故郷で暮らせるのか、子どもを安心して育てられるのか。こうした問いに気候の不確実性が加わると、努力の先にある暮らしを描きにくくなります。
気候不安を理解するには、地球全体の問題と個人の生活の間にあるつながりを見る必要があります。例えば、人生設計には次のような懸念が入り得ます。
- 暑さや災害に備えながら、どこに住むかを考える
- 希望する仕事が気候の変化でどんな影響を受けるかを考える
- 子どもを持つことや、その子が暮らす環境について迷う
- 備えに必要な費用と、現在の生活費をどう両立するか悩む
これらは、若者全体の意識を示す調査結果ではなく、不安が生活の判断に入り込む場面の例です。気候だけで結婚や出産、就職の選択が決まるわけではなく、経済状況や価値観なども関わります。
海外の調査を日本の若者全体に当てはめない
英国のバース大学の研究者らが2021年に学術誌「The Lancet Planetary Health」で公表した国際調査は、同年に10か国の16~25歳、計1万人を対象に実施されました。気候変動を「非常に」または「極めて」心配している回答者は59%でした。
同じ調査では、75%が「未来は恐ろしい」という趣旨の項目に同意しました。また、45%を超える回答者が、気候変動に関する感情は日常生活や生活上の機能に悪影響を与えていると答えています。
ただし、この調査に日本は含まれておらず、世界中の若者全体の割合を示すものでもありません。日本の若者の実態を考える際は、海外で確認された問題を手掛かりにしながら、当事者の声を確かめる必要があります。
不安の背景に社会への不信があるのはなぜか?
気候不安には、環境の変化への恐れに加えて、危機を知る大人や政府が十分に対応していないという認識が関わります。
前述の2021年の国際調査では、気候への不安や苦痛と、政府の対応を不十分だと感じることに関連が見られました。ただし、関連があるという結果だけで、政府への不信が不安の唯一の原因だとは言えません。
それでも、若者の心の問題を本人の考え方だけに還元できないことは示唆されます。危険を学んでも、社会がどう対処するか見えなければ、知識が安心につながるとは限らないからです。
例えば、学校で環境問題を学ぶ一方、身近な施設で暑さ対策が後回しにされていたらどうでしょう。危機への関心を求められながら、改善の判断には参加できないという矛盾が生まれます。
ここで重要なのは、誰かを一方的に責めることではなく、責任と権限の所在を明確にすることです。個人の節電と、電力供給や都市整備の変更では、実行できる主体も影響の大きさも異なります。
若者に「未来のために行動しよう」と伝えるなら、行政や企業も、自分たちが何を変えるのかを示す必要があります。努力を求める言葉だけでなく、実行と説明によって信頼を積み重ねることが求められます。
日本の暮らしと気候不安はどうつながるのか?
日本で気候不安を考える際は、猛暑や大雨への備えと、学校・仕事・住まいの具体的な条件を結び付けることが重要です。
文部科学省と気象庁が公表した「日本の気候変動2025」は、国内の観測結果と将来予測を整理しています。気温の上昇や猛暑日の増加を示すとともに、温暖化に伴う極端な大雨の頻度や強度の増加を説明しています。
ただし、個々の豪雨や暑い日を、すべて同じ理由で説明できるわけではありません。長期的な気候の変化と、その日の気象条件を区別しながら、生活に必要な備えを考えることが大切です。
例えば、夏の屋外活動を安全に行えるか、暑い部屋で勉強を続けられるかという問題があります。住まい選びでも、家賃や交通の便利さに加えて、浸水への備えや暑さをしのげる環境を検討する場面が考えられます。
同じ危機でも備えられる条件は違う
冷房を使える住環境や安全な移動手段があれば、危険への対処を選びやすくなります。一方、家計や仕事の条件によって選択肢が限られる人にとって、「自分で備える」という助言だけでは足りません。
WHOの2022年の政策文書も、気候変動による心の健康への影響は、社会経済的な条件などによって異なるとしています。不安への支援と、生活を守る環境の改善を一緒に考える必要があります。
日本で対策を具体化するなら、気候の知識を教えるだけでなく、その知識を使える条件を整えることが課題です。学校や職場、地域で確認すべき点には、次のようなものがあります。
- 暑さや大雨の際に、活動の変更や中止を判断できるか
- 安全な場所への避難や移動を支える仕組みがあるか
- 住環境や費用の事情で、対策を選べない人を支援できるか
- 若者が困り事を伝え、改善を求められる窓口があるか
これらは気候不安への心理的な配慮であると同時に、実際の危険を減らす取り組みです。「心配しなくてよい」と言う前に、何を改善できるかを確かめることが安心の土台になります。
不安と付き合いながら暮らすにはどうすればよいのか?
気候不安と付き合うには、情報との距離を調整し、気持ちを共有し、無理なく関われる範囲を見つけることが役立ちます。
深刻なニュースを追い続けても、それに応じて自分の行動の選択肢が増えるとは限りません。情報を知る時間と、勉強、仕事、休息の時間を分ける工夫には意味があります。
その際、危険を見ないようにする必要はありません。災害時に必要な警報や避難情報は確認しつつ、将来への不安を強める情報を際限なく見続けないという整理ができます。
例えば、気候について考えるときは、次のように自分の負担と行動の範囲を確かめられます。すべてを一度に実行する必要はなく、生活に合う方法を選ぶことが大切です。
- 情報源を絞り、予測と確定した事実を区別する
- 不安を否定せずに聞いてくれる人と話す
- 日常の備えと、社会の仕組みへの働きかけを分けて考える
- 活動や情報収集から離れ、休める時間を確保する
こうした工夫は、気候問題そのものを解決する代わりにはなりません。それでも、生活を保ちながら問題に関わるための足場にはなります。
行動することを新たな義務にしない
地域の活動や政策への意見提出など、自分以外の人と一緒に取り組める方法もあります。ただし、活動への参加が誰にでも同じように役立つと考え、苦しんでいる人に行動を迫るべきではありません。
眠りや食事、学業や仕事への支障が続く場合は、学校の相談窓口や医療機関などに相談できます。不安の背景に現実の問題があっても、心身の負担を軽くする支援を受けることは矛盾しません。
未来への希望を支えるのは具体的な対応である理由
未来への希望を支えるのは、安全を無条件に約束する言葉ではなく、危険を減らせることを示す具体的な対応です。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2023年の統合報告書は、温暖化が進むほど危険が増すと評価しています。同時に、排出削減と適応によって将来のリスクを減らせることも示しています。
これは、「すべて元に戻る」とも「何をしても無駄だ」とも異なる見方です。被害を完全に消せなくても、どの程度の危険に直面するかは、これからの選択によって変わります。
排出削減は温暖化を抑える取り組みであり、適応は変化する気候の影響に備える取り組みです。学校の暑さ対策や地域の水害への備えと、エネルギーや交通の仕組みの変更は、両方を進める必要があります。
その進捗を、若者が理解できる形で示すことも欠かせません。計画があるかどうかに加え、何が実行され、何が遅れ、どう修正するのかを説明すれば、社会への評価や参加の材料になります。
若者の声を聞く場を設けても、意見がどう扱われたか分からなければ信頼は育ちません。提案を採用できない場合も理由を説明し、判断に関われる道を残すことが、将来を共に考える姿勢になります。
まとめ
気候不安と生きる世代を支えるには、不安を受け止めることと、将来の危険を減らす社会の対応を同時に進める必要があります。
気候不安は、若者の弱さだけでは説明できない問題です。現実の環境変化、人生設計の不確実性、社会の対応への評価が重なっており、本人の気持ちだけを変えようとしても十分ではありません。
必要なのは、全員に同じ楽観や行動を求めることではなく、生活を守り、選択肢を増やすことです。不安を話せる相手や支援に加え、学校、職場、地域で危険を減らす取り組みが求められます。
遠い未来を信じる力は、個人の気持ちだけから生まれるものではありません。今日の困り事に社会が応え、約束した対策を実行することが、明日を考え続けるための支えになります。
主な参考資料
- Hickman, C.ほか「Climate anxiety in children and young people and their beliefs about government responses to climate change: a global survey」(The Lancet Planetary Health、2021年公表、2021年調査)
- 世界保健機関(WHO)「Mental health and Climate Change: Policy Brief」(2022年)
- 文部科学省・気象庁「日本の気候変動2025」(2025年)
- 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「Climate Change 2023: Synthesis Report」(2023年)
