突然の辞任劇
サントリーホールディングスは9月2日、代表取締役会長の新浪剛史氏が辞任したと発表した。理由は、大麻成分(THC)を含む可能性があるサプリメントを購入したとの疑いで、福岡県警が自宅を家宅捜索し事情聴取を行ったためだ。
しかし報道によれば、違法物質は確認されなかった。刑事事件として立件される可能性は極めて低いにもかかわらず、取締役会は「ガバナンス上の問題」として辞任を受理した。この展開は、単なる企業不祥事にとどまらず、日本経済界全体への揺さぶりを意味する。
経済同友会代表幹事という立場
注目すべきは、新浪氏が現在も経済同友会の代表幹事(代表理事)を務めていることだ。経済同友会は経団連・日商と並ぶ日本の主要経済団体であり、その代表幹事は財界リーダーの象徴的存在だ。
つまり今回の辞任劇は、サントリーの経営トップの退任にとどまらず、経済界の代表的リーダーを標的にした捜査と辞任という重大な意味を持つ。福岡県警の動きは「財界に対する挑戦状」とも受け取れる。
事件性は立証されず
英フィナンシャル・タイムズやロイターなどの報道によると、捜査対象となったサプリメントや本人の検査からは違法物質は検出されなかった。つまり「白」であり、物的証拠に基づく事件性は極めて低い。
それでも強制捜索が行われ、メディアは「麻薬疑惑」を大々的に報じた。ここには「大物を摘発した」という成果を示したい警察の意図が透けて見える。
創業家の任命責任
一方で、サントリー内部の責任も見逃せない。新浪氏は2014年にローソンから招聘され、外様経営者として社内改革を進めたが、その強引な手法やパワハラ的言動は以前から問題視されていた。
それでも創業家を中心とする取締役会は任命を続け、十分な監督を行わなかった。今回の件で表面的には新浪氏個人の責任が強調されるが、創業家・取締役会の任命責任も重い。
サプリ事業との皮肉
サントリーは自ら健康食品事業を展開している。「セサミンEX」などを販売する企業のトップが、不適切なサプリを入手していた事実は、ブランドの信頼を大きく損ねる。
この矛盾は、単に新浪氏個人の過ちではなく、ガバナンス体制の不備そのものを示している。
国際的規制の違い
米国では多くの州で大麻が合法化されており、健康食品やサプリにTHCが含まれているケースは珍しくない。海外で合法的に入手できるものが、日本に持ち込めば違法の可能性がある。この国際的規制のギャップが、今回の「グレーゾーン」の背景だ。
しかし警察はそうした複雑な事情よりも「大物摘発」を優先し、創業家は「ガバナンス」を盾に外様トップを切り捨てた。
今後の焦点
- 経済同友会代表幹事の辞任に発展するのか、それとも続投するのか
- 創業家と取締役会が、任命・監督責任をどう説明するのか
- 福岡県警が「証拠白」のままどのように捜査を総括するのか
- 経済界全体が「警察と創業家の動き」をどう受け止めるのか
まとめ
今回の「サントリー新浪会長・大麻サプリ疑惑辞任」は、違法性が確認されないまま、経済界を代表するリーダーが辞任に追い込まれた不可解な事件だ。
真に問われるべきは、
- 外様トップを任命・監督できなかった創業家と取締役会
- 成果主義で大物狙いを優先した福岡県警
- そして経済界全体に突きつけられた「警告」の意味
である。
この事件は、サントリー一社の不祥事ではなく、日本経済界全体への挑戦として捉えるべきだ。