“増税国家ニッポン”を問う 第7回
増税や社会保険料の負担を求める前に、国の予算には削れる無駄が残っていないのでしょうか。結論からいえば、巨額の歳出がそのまま無駄なのではなく、事業の効果や終了条件が見えにくいことが問題です。本記事では、公共事業、補助金、基金、特別会計の仕組みから、不要な支出が残りやすい構造を解説します。
国の予算は「金額が大きいから無駄」とは限らない
歳出を見直す際に重要なのは予算額の大きさではなく、その支出が必要な成果を生み、より安い方法で代替できないかを検証することです。
道路、橋、上下水道、防災施設、医療、年金などには巨額の費用がかかります。しかし、金額が大きいという理由だけで削減すれば、事故や災害の危険が増え、将来の修繕費がかえって膨らむ可能性があります。
一方で、公共性があるという説明だけで、すべての事業を正当化することもできません。人口や産業構造が変わっているのに、過去と同じ施設や制度を維持し続ければ、必要性の低い支出が固定化します。
予算の必要性を判断するには、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- どのような社会問題を解決する事業なのか
- 数値で測れる成果が設定されているか
- 同じ目的の事業が別の省庁にもないか
- 民間や自治体で代替できないか
- 終了や縮小を判断する条件があるか
予算を削ること自体が目的ではありません。限られた財源を本当に必要な防災、教育、子育て、医療、成長投資へ振り向けることが、歳出改革の本来の目的です。
公共事業はなぜ簡単に削れないのか?
公共事業は国民生活を守る基盤である一方、地域経済、雇用、議員、行政、建設業が結び付きやすく、一度始まると見直しにくい支出です。
2026年度の公共事業関係費は6兆1,078億円で、前年度当初予算より220億円増えました。政府は資材価格や労務費の上昇を踏まえながら、防災・減災、国土強靱化、老朽インフラ対策を進めるとしています。
日本では高度経済成長期に整備された道路、橋、トンネル、上下水道が一斉に老朽化しています。新しい施設を造る事業だけでなく、既存施設の点検や更新にも継続的な予算が必要です。
必要なインフラ整備と利益誘導は分けて考える
公共事業が批判されるのは、必要性の低い道路や施設が政治的な要望によって整備されてきた歴史があるためです。地域の業界団体が議員へ要望し、議員が省庁へ働き掛け、事業が予算化されるという構図は、かつての族議員政治の典型でもありました。
ただし、地方の道路や河川整備をすべて利益誘導とみなすのも危険です。利用者が少なくても、災害時の避難路、救急搬送、物流、集落維持に欠かせない施設があります。
公共事業で問うべきなのは、都市部か地方かではなく、次のような具体的な必要性です。
- 災害や事故の危険をどの程度減らせるか
- 将来人口に見合った規模になっているか
- 新設より補修や統廃合が合理的ではないか
- 完成後の維持管理費を負担できるか
- 地域経済への効果が一時的な雇用で終わらないか
建設費だけを示し、完成後の管理費を十分に説明しない事業は少なくありません。今後は「造るかどうか」だけでなく、「誰が何十年間維持するのか」まで含めて判断する必要があります。
補助金はなぜ一度始まると終わりにくいのか?
補助金は政策目的を実現する有効な手段ですが、受給者と所管官庁の双方に継続を望む動機が生まれるため、効果が薄れても廃止しにくくなります。
補助金とは、国が特定の政策目的のため、企業、自治体、団体、個人などへ資金を交付する制度です。省エネ設備、農業、研究開発、雇用、観光、地域振興など、幅広い分野で使われています。
政策の初期段階では、民間だけでは採算が取れない事業を育てたり、災害や不況から事業者を守ったりする効果があります。一方、補助金が恒常化すると、支援がなければ存続できない事業を温存する危険があります。
補助金を受けることが事業の目的になってしまう
本来、補助金は社会的な成果を生み出すための手段です。しかし、制度が複雑になるほど、申請件数、採択件数、予算消化率が行政上の成果として扱われ、実際の効果が後回しになることがあります。
また、補助金には申請書の作成、審査、報告、検査などの事務費がかかります。少額の補助を多数の事業者へ配る制度では、受給側と行政側の事務負担が、政策効果に見合わない場合もあります。
補助金の必要性を評価する際には、次の点が重要です。
- 支援がなければ本当に実施されない事業か
- 補助終了後も自立して継続できるか
- 売上、雇用、生産性などの成果が確認できるか
- 同じ企業や団体が繰り返し受給していないか
- 審査や管理に過大な費用がかかっていないか
政府は、補助金や基金の事業名、概要、金額などを行政事業レビューの見える化サイトで公表しています。各事業を一覧できる仕組みは整いつつありますが、資料を読むには制度知識が必要で、国民にとって十分に分かりやすいとはいえません。
基金は予算を見えにくくする抜け道なのか?
基金は複数年度にわたる事業には必要ですが、国から資金を移した後に毎年度の国会審議を受けにくくなり、余剰金が残る危険があります。
基金とは、国が独立行政法人、公益法人、自治体などへまとまった資金を交付し、複数年度にわたって事業へ使わせる仕組みです。緊急対策、研究開発、企業支援など、年度をまたぐ必要がある政策に利用されます。
通常の予算は原則として年度ごとに計上されますが、基金に入った資金は翌年度以降も使用できます。そのため、災害や感染症対策のように支出時期を正確に予測できない事業には適しています。
一方、必要額を多めに積み立てれば、使われない資金が基金内に残ります。国の一般会計からはすでに支出済みと扱われるため、表面上の予算執行率と、現場で実際に使われた金額が異なることもあります。
毎年必要額が分かる事業を基金にする必要はない
政府の行政事業レビュー実施要領では、基金事業について、基金方式の必要性、余剰資金、事業の進捗を点検し、不要額を国庫へ返納することが求められています。また、毎年度の所要額がおおむね予測できる事業は、基金ではなく通常の予算措置を検討する考え方が示されています。
実際、政府は基金の点検を行い、国庫返納予定額を公表してきました。返納が行われること自体は改善ですが、裏を返せば、当初の積立額が実際の需要を上回っていた基金が存在したことになります。
基金を設ける際には、次の条件を明確にする必要があります。
- なぜ単年度予算では対応できないのか
- 事業を終了する年度はいつか
- 年度ごとの支出見込みはいくらか
- 残高がどの水準なら返納するのか
- 交付先の管理費や運用収入はいくらか
問題は基金そのものではなく、期限や成果を曖昧にしたまま資金を置き続けることです。緊急時の機動性と、国会による統制を両立させる制度設計が必要です。
特別会計には本当に「埋蔵金」があるのか?
特別会計には巨額の資金が計上されますが、その大半には国債償還、年金、地方交付税など明確な用途があり、自由に使える余剰金ではありません。
特別会計とは、特定の事業や特定の収入を一般会計と分けて管理する会計です。2026年度には、経過的なものを含めて14の特別会計が設けられています。
2026年度の特別会計の歳出総額は441.7兆円ですが、会計間の資金移動などの重複を除いた純計額は216.2兆円です。総額だけを見ると一般会計を大幅に上回りますが、同じ資金が複数の会計を移動して重複計上されているため、441.7兆円すべてが新たな支出ではありません。
純計額には、国債償還費など88.8兆円、社会保障給付費81.2兆円、地方交付税交付金など24.3兆円、財政融資資金への繰入れ13兆円が含まれます。これらと復興経費を除いた部分は8.3兆円とされています。
特別会計が必要でも分かりにくさは残る
年金保険料を年金給付へ使うように、特定の収入と支出を分けて管理する合理性はあります。一般会計と一緒にすれば、事業ごとの収支や保険料の使途がかえって見えにくくなる場合もあります。
しかし、一般会計と特別会計の間で繰入れや繰戻しが行われると、どの負担がどの支出に対応しているのか理解しにくくなります。また、積立金や剰余金があっても、将来の給付や国債償還に必要なら、自由に減税へ回すことはできません。
特別会計を検証する際には、総額だけでなく次の数字を見る必要があります。
- 会計間の重複を除いた純計額
- 法律で定められた給付や償還の金額
- 一般会計からの繰入額
- 年度末の剰余金と翌年度への繰越額
- 積立金を維持する具体的な根拠
「特別会計には何百兆円もの埋蔵金がある」という説明は正確ではありません。ただし、用途が決められているという理由だけで、事業の効率性や積立水準の妥当性を検証しなくてよいわけでもありません。
なぜ不要な予算は残り続けるのか?
不要な予算が残る最大の理由は、事業を始める人には評価が集まる一方、終了させる人には政治的な利益が少なく、反対だけが集中しやすいからです。
新しい制度を作れば、担当省庁、業界、自治体、利用者などの関係者が生まれます。予算の廃止や縮小は、その関係者に直接的な損失を与えるため、強い反対を受けます。
一方、削減によって一人当たり数十円、数百円の負担が軽くなっても、国民一人ひとりがその効果を実感することは困難です。利益を受ける集団は少数でも結束し、費用を負担する国民は多数でも分散するという構造があります。
さらに、役所では前年度の予算を基準に次年度の要求を組み立てる傾向があります。予算を使い残すと翌年度に減額されることを恐れ、年度末に支出を急ぐような行動が起きれば、効率的な執行とはいえません。
不要な予算を残しやすい要因は、次のように整理できます。
- 既存事業を前提に予算要求が行われる
- 受益者が廃止へ強く反対する
- 成果より予算消化が重視されやすい
- 複数省庁の類似事業を統合しにくい
- 終了条件が最初から設定されていない
行政事業レビューは、原則としてすべての予算事業や基金事業を毎年度点検し、成果指標や外部の視点を活用して翌年度の予算要求へ反映する制度です。制度は存在しますが、自己点検が中心である以上、より独立した検証と国会での活用が必要です。
歳出改革に必要なのは一律削減ではなく「やめる仕組み」である
歳出改革を進めるには、各省庁へ同じ割合の削減を求めるのではなく、事業ごとの成果、重複、代替手段、終了条件を公開する必要があります。
一律削減は行政に分かりやすい方法ですが、必要な事業も不要な事業も同じ割合で削るため、政策の優先順位を示せません。防災設備の更新を遅らせる一方、効果の乏しい補助制度が残る可能性もあります。
政府は予算執行調査によって現地確認や関係者への聞き取りを行い、執行上の問題を翌年度予算へ反映しています。また、行政事業レビューや基金シートなど、予算を点検する仕組みも整備されています。
ただし、資料を公開するだけでは国民による検証は進みません。専門家でなくても理解できる形で、事業の目的、支出額、成果、見直し理由を示す必要があります。
今後の歳出改革では、次の仕組みが重要です。
- 新規事業に原則として終了期限を設ける
- 一定期間ごとにゼロから必要性を審査する
- 類似する補助金や交付金を統合する
- 基金残高と実際の支出額を毎年公表する
- 事業廃止後の影響まで検証する
- 国会が決算と行政事業レビューを予算審議に活用する
予算の入口である概算要求だけでなく、実際に使われた後の決算を重視することも必要です。「予算を確保した」ことではなく、「社会問題をどれだけ改善したか」で行政を評価する仕組みへ変えなければなりません。
まとめ
公共事業、補助金、基金、特別会計は、それ自体が無駄な制度ではありません。インフラの維持、防災、産業支援、社会保障など、民間だけでは担えない政策を実行するために必要な仕組みです。
問題は、いったん始まった事業に受益者と所管組織が生まれ、社会状況が変わっても終了しにくくなることです。事業目的が曖昧で、成果を測れず、終了条件もなければ、支出は既得権へ変わります。
特別会計の巨額な歳出は重複計上を含み、その大半には国債償還や社会保障給付などの用途があります。「埋蔵金ですべて解決できる」という見方は現実的ではありませんが、積立金や剰余金を含めた継続的な検証は必要です。
また、公共事業を一律に削ればよいわけでもありません。老朽化した橋や上下水道を放置すれば、将来の事故や更新費用が増え、結果として国民負担が重くなります。
増税を議論する前に、政府は既存事業の成果、基金残高、補助金の受給状況、特別会計の資金移動を分かりやすく示すべきです。国民も「大きな予算は無駄」「自分の地域の事業だけは必要」という二重基準を離れ、支出の効果と負担を同じ尺度で考える必要があります。
