住宅価格が上がるなか、若者にとって「家を持つ」ことは手の届かない夢になったのでしょうか。結論からいえば、持ち家そのものが不可能になったわけではありませんが、新築・都市部・長期定住を前提とする従来の住宅取得は難しくなっています。本記事では、価格高騰の背景と、中古住宅や賃貸、住み替えを組み合わせる新しい住まい方を解説します。

「家を持つ」という夢は消えたのか?

家を持つ夢が消えたのではなく、希望する場所や広さ、購入時期を調整しなければ実現しにくい時代になっています。

住宅金融支援機構の「2025年度フラット35利用者調査」では、利用者が取得した住宅の平均所要資金は、すべての住宅区分で前年度を上回りました。土地付き注文住宅は5,313万円、マンションは5,882万円となり、新築住宅を中心に必要資金が大きくなっています。

ただし、この数字は全国の住宅購入者全体ではなく、フラット35の利用者を対象としたものです。それでも、実際に長期固定金利の住宅ローンを利用した人の購入額が上昇している事実は、若者が直面する負担の大きさを示しています。

一方で、同調査における30歳代以下の利用割合は45.1%で、前年度から4.9ポイント増えました。価格が高騰しても若い世代の購入がなくなったわけではなく、共働きによる収入合算や購入地域の変更、中古住宅の選択などを通じて、条件を組み替えていると考えられます。

現在の住宅取得をめぐる変化は、次のように整理できます。

  • 新築住宅の取得に必要な金額が上昇している
  • 都市部では土地代が購入額を押し上げている
  • 共働きや収入合算を前提とする購入が増えている
  • 中古住宅や郊外へ選択肢を広げる動きがある

つまり、「普通に働き、適齢期になれば標準的な新築住宅を買える」という道筋が弱くなったのであって、家を持つこと自体が消えたわけではありません。変わったのは夢の有無ではなく、そこへ至る条件です。

なぜ住宅価格は若者の所得以上に重く感じられるのか?

住宅価格の負担感が強まる理由は、土地・建築費・人件費の上昇に加え、将来の収入を見通しにくくなったことにあります。

国土交通省の「令和8年地価公示」では、全国の住宅地が5年連続で上昇し、三大都市圏では上昇幅も拡大しました。東京圏と大阪圏では住宅地を含む各用途の上昇幅が拡大しており、通勤や生活に便利な地域ほど土地取得の負担が増しやすい状況です。

住宅価格を押し上げているのは土地だけではありません。建築資材、設備、輸送費、現場の人件費などが積み重なるため、土地価格が比較的低い地域でも、新築住宅が大幅に安くなるとは限らなくなっています。

問題は価格だけではなく将来の不確実性にある

若者が住宅購入をためらう背景には、現在の年収だけでは判断できない事情があります。転職、結婚、出産、介護、勤務地の変更などによって、必要な住まいの場所や広さが変わる可能性があるからです。

住宅ローンは数十年にわたる契約となるため、購入時に返済できることと、将来も無理なく返済できることは同じではありません。金利や管理費、修繕費、固定資産税を含めて考えると、物件価格だけを基準にした判断は危険です。

購入前に確認すべき負担には、少なくとも次のものがあります。

  • 毎月の住宅ローン返済額と金利上昇時の負担
  • 固定資産税、管理費、修繕積立金
  • 戸建住宅の外壁、屋根、設備などの修繕費
  • 転居時の売却費用や売却価格の変動
  • 出産、休職、転職などによる世帯収入の減少

住宅取得が難しく感じられるのは、単に価格が高いからではありません。変化の多い人生に対して、長期の固定的な支払いを引き受けることへの慎重さが強まっているのです。

中古住宅が現実的な選択肢になっている理由

中古住宅は、新築の代用品ではなく、立地や価格、将来の売却可能性を重視する人にとって独立した選択肢になりつつあります。

住宅金融支援機構の「2025年度フラット35利用者調査」では、中古戸建てと中古マンションを合わせた利用割合が35.9%となりました。中古住宅が注文住宅や分譲住宅の区分を上回ったのは、2004年度の調査開始以来初めてです。

同調査の平均所要資金は、中古戸建てが2,783万円、中古マンションが3,602万円でした。平均額だけで単純比較はできませんが、土地付き注文住宅や新築マンションより総額を抑えやすいことが、中古住宅へ目を向ける一因と考えられます。

中古住宅は価格以外の確認が欠かせない

中古住宅には、すでに存在する建物を実際に確認して選べる利点があります。一方で、耐震性、断熱性、給排水設備、修繕履歴、マンションの管理状態など、購入価格には表れにくい差があります。

特にマンションでは、室内がきれいに改装されていても、建物全体の修繕計画や管理組合の財政状況に問題があれば、将来の負担が増える可能性があります。戸建てでも、購入後すぐに屋根や外壁、給湯設備の工事が必要になれば、当初の予算を超えてしまいます。

中古住宅を選ぶ際は、次の点を価格と合わせて確認する必要があります。

  • 建物の耐震性と劣化状況
  • 修繕履歴と今後必要になる工事
  • マンションの長期修繕計画と積立状況
  • 断熱性能と毎月の光熱費
  • 将来売却するときの需要と立地条件

安い住宅を探すのではなく、購入後に必要となる費用まで含めた「総額」で比較することが重要です。中古住宅の広がりは、住宅購入が新築一択ではなくなったことを示しています。

「住まいの流動化」とは何を意味するのか?

住まいの流動化とは、一つの家に生涯住み続けることを当然とせず、仕事や家族構成に応じて住居を選び直す考え方です。

かつての持ち家は、就職、結婚、住宅購入、定年という比較的直線的な人生設計と結び付いていました。しかし現在は、転職や在宅勤務、共働き、単身生活、晩婚化などにより、同じ場所と広さが生涯にわたって最適とは限りません。

例えば、単身時代は職場に近い賃貸住宅に住み、子どもが生まれた後に広い中古住宅を購入し、独立後は小さな住宅へ移るという選択があります。持ち家か賃貸かを一度決めて終わるのではなく、人生の段階ごとに選び直す発想です。

住まいの流動化には、主に次のような形があります。

  • 賃貸住宅を住み替えながら生活圏を調整する
  • 新築に限らず中古住宅を購入する
  • 購入した住宅を将来売却して住み替える
  • 都市部と地方、二つの拠点を使い分ける
  • 必要な期間だけ広い住宅を選ぶ

ただし、日本では住宅の売却に仲介手数料や登記費用などがかかり、買った住宅が希望価格で売れる保証もありません。流動化を前提に購入するなら、広さや新しさだけでなく、交通、生活利便性、管理状態など、次の買い手から見た価値も重要になります。

持ち家と賃貸はどちらが若者に向いているのか?

持ち家と賃貸の優劣は一律には決まらず、今後どれだけ生活条件が変わるかによって適した選択が異なります。

持ち家には、住宅ローン完済後に住居費を抑えやすく、自分の判断で改装できる利点があります。その反面、災害や建物の劣化、資産価格の下落、転居しにくさといったリスクも所有者が負います。

賃貸住宅は、転職や結婚に合わせて住み替えやすく、大規模な建物修繕を自分で直接負担しない点が強みです。一方で、家賃の支払いが続き、高齢期の契約や収入減少への備えが必要になります。

購入を急がないことも住宅戦略である

周囲が家を買い始めたことや、価格がさらに上がるという不安だけで購入を急ぐ必要はありません。数年間賃貸で暮らし、勤務先、家族構成、希望する地域が固まってから購入することも、合理的な判断です。

反対に、長く住む地域が決まり、返済後も生活資金を確保できるのであれば、早期の購入が必ずしも不利とは限りません。重要なのは、所有か賃貸かという形式ではなく、その住宅が生活の変化を妨げないかどうかです。

判断に迷う場合は、次の基準で考えると整理しやすくなります。

  • 今後5~10年で勤務地や家族構成が変わる可能性
  • 住宅費を払った後も貯蓄を続けられるか
  • 収入が一時的に減っても返済を継続できるか
  • 将来売却または賃貸に出せる立地か
  • 高齢期まで含めて住み続けたい地域か

購入可能額の上限まで借りるのではなく、生活の余白を残せる金額を基準にすることが大切です。銀行が貸せる金額と、世帯が安心して返せる金額は同じではありません。

若者の住まいに必要なのは所有支援だけなのか?

これからの住宅政策には、購入支援だけでなく、良質な賃貸住宅と中古住宅を安心して選べる市場づくりが必要です。

住宅ローン減税や取得支援は、家を買える世帯の負担軽減には役立ちます。しかし、住宅価格の上昇に合わせて借入額だけが増えれば、家計の長期的な安全性が高まるとは限りません。

国土交通省の「住生活基本計画(全国計画)」も、若年世帯や子育て世帯が安心して暮らせる住生活、中古住宅の流通、空き家の活用などを政策課題に位置付けています。住宅を新しく建てて所有することだけでなく、すでにある住宅を適切に循環させる視点が欠かせません。

必要なのは、次のような選択肢を同時に整えることです。

  • 長く安心して住める良質な賃貸住宅
  • 建物の状態が分かりやすい中古住宅市場
  • 子育てや介護に対応した住み替え支援
  • 空き家を安全に再生する仕組み
  • 住宅費が家計を圧迫しすぎないための相談体制

若者に家を買わせること自体を政策目標にするのではなく、どの住み方を選んでも将来設計が崩れにくい環境をつくることが重要です。所有できる社会と同時に、所有しなくても不安なく暮らせる社会が求められています。

まとめ

「家を持つ」という夢は消えていませんが、新築住宅を購入して同じ場所に住み続けるという従来のモデルは、誰にでも当てはまるものではなくなっています。

地価や建築費の上昇によって住宅取得の負担は重くなり、若者には共働き、購入地域の見直し、中古住宅の活用などが求められています。その一方で、中古住宅の利用割合が高まり、住み替えを前提とした住まい方も現実的な選択になっています。

大切なのは、持ち家を人生の成功、賃貸を一時的な状態と決めつけないことです。住まいは一度選んで終わるものではなく、働き方や家族、年齢に応じて見直してよい生活基盤です。

若者にとっての住宅問題の本質は、家を買えるか買えないかだけではありません。変化する人生に合わせて、無理なく住む場所を選び直せるかどうかにあります。

主な参考資料

  • 国土交通省「令和8年地価公示」(2026年公表、2026年1月1日時点)
  • 住宅金融支援機構「2025年度フラット35利用者調査」(2026年公表、2025年4月~2026年3月対象)
  • 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」(2024年公表、2023年10月1日時点)
  • 国土交通省「住生活基本計画(全国計画)」(2021年3月閣議決定)
  • 国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」(2025年公表)