なぜ若者は結婚しなくなったのでしょうか。自由を優先して「結婚しない」人が増えた一方、経済的不安や将来の負担から「結婚できない」と感じる人もいます。本記事では、結婚意思、所得や雇用、独身生活の自由、男女の負担差から、若者の家族観が変化する背景を考えます。

「結婚しない」と「結婚できない」は分けられるのか?

若者の非婚化は、本人の価値観による選択と、経済・雇用・家族制度による制約が重なって起きているため、どちらか一方では説明できません。

国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査」によると、2021年調査で「いずれ結婚するつもり」と答えた18~34歳の未婚者は、男性81.4%、女性84.3%でした。前回の2015年調査から低下したものの、結婚意思を持つ人はいまも多数派です。

一方、厚生労働省の「2025年人口動態統計月報年計(概数)」では、2025年の婚姻件数は48万9119組でした。前年から増えているものの、結婚する意思がある人の割合と、実際に婚姻へ進む人の動きは同じではありません。

ここで分けて考えたいのは、次の三つの状態です。

  • 積極的に独身を選び、結婚する意思がない
  • いつかは結婚したいが、現在は必要性を感じない
  • 結婚したいが、相手や経済条件、仕事などの障害がある

同じ「未婚」という結果でも、そこに至る理由はまったく異なります。結婚したくない人まで問題視することと、結婚したいのに実現できない人の障害を放置することは、どちらも適切ではありません。

意思と実行の間には距離がある

結婚意思があるからといって、直ちに相手を探し、住居を決め、家族をつくれるわけではありません。交際、仕事、収入、住まい、家事分担、子どもを持つかどうかなど、いくつもの条件が整って初めて具体的な決断になります。

「結婚しない」と「結婚できない」は、固定された二つの集団でもありません。経済的不安が長引くうちに結婚への意欲が弱くなることもあれば、安心して暮らせる相手との出会いによって考えが変わることもあります。

経済不安は結婚の入口をどう狭めるのか?

経済的不安は結婚費用だけの問題ではなく、交際を始め、住居を構え、将来設計を立てるまでの全過程に影響します。

第16回出生動向基本調査では、結婚意思のある18~34歳の未婚者に「一年以内に結婚するとしたら障害があるか」と尋ねています。2021年調査で「障害がある」と答えた割合は男性65.2%、女性69.3%でした。

具体的な障害として最も多かったのは「結婚資金」で、男性47.5%、女性43.0%です。続いて「結婚生活のための住居」が男性22.6%、女性20.9%、「職業や仕事上の問題」が男性15.4%、女性19.0%となっています。

ここでいう経済問題は、結婚式の費用だけを指すものではありません。毎月の収入が安定しているか、家賃を払い続けられるか、転職や出産で一時的に収入が減っても生活できるかという、将来の見通しの問題です。

内閣府の「令和5年度年次経済財政報告」は、30代の男性有業者では年収が高いほど未婚率が低い傾向があり、その関係は2012年から2022年まで大きく変わっていないと分析しています。経済力と婚姻の関係には男女差があり、男性を主な稼ぎ手とみなす従来の役割意識も残っています。

所得は交際以前の段階にも影響する

経済的に余裕がなければ、本人が結婚資金を計算するより前に、人と会う時間や気持ちの余裕が失われます。内閣府の同報告も、無職やパート・アルバイトの男性では、交際相手を望まない割合が高い傾向を示しています。

経済的不安が結婚に影響する過程は、次のように整理できます。

  • 収入や雇用が不安定で、将来を約束しにくい
  • 交際や外出に使える時間と費用が限られる
  • 住居や子育てまで考えると決断を先送りする
  • 先送りが続くうちに、結婚への関心自体が薄れる

所得が低いから必ず未婚になるわけではなく、高所得なら必ず結婚できるわけでもありません。ただし、経済的な安定が選択肢を広げ、不安定さが選択肢を狭めることは、本人の努力だけでは解消しにくい構造的な問題です。

「自由」はわがままではなく失いたくない生活基盤である

若者が独身生活に感じる自由は、単なる気楽さではなく、自分の時間、仕事、住む場所、生き方を自分で決められる状態を意味します。

第16回出生動向基本調査で、独身生活の利点として「行動や生き方が自由」を挙げた18~34歳の未婚者は、男性70.6%、女性78.7%でした。男女とも最も多く選ばれ、長期的にも高い水準が続いています。

かつて結婚は、経済的な自立、世間からの信用、子どもを持つことなどと強く結び付いていました。しかし、一人でも働き、住居を借り、日常生活を維持できる社会では、結婚しないことが直ちに生活の不成立を意味しません。

独身生活で守りたい自由には、さまざまな内容があります。

  • 仕事や転居を自分の判断で決められる
  • 収入と時間の使い道を自分で選べる
  • 家事や親族関係に伴う役割を背負わずに済む
  • 趣味、友人関係、一人の時間を保ちやすい

結婚がこの自由をすべて失わせるわけではありません。問題は、二人で暮らすことで得られる安心や喜びが、失うかもしれない自由や新たに負う責任を上回ると感じられるかどうかです。

一人で暮らせるからこそ結婚の条件が問われる

独身でも生活を成り立たせられるようになれば、結婚は「しなければならないもの」から「する価値があるときに選ぶもの」へ変わります。その結果、結婚相手には愛情だけでなく、生活上の協力や価値観の一致も求められるようになります。

これは結婚への理想が過度に高くなったというより、結婚によって生活が悪化する可能性を慎重に見ているとも解釈できます。自由を知った世代に結婚を選んでもらうには、結婚後も個人としての自由を守れる関係が必要です。

なぜ女性は結婚後の負担を慎重に見るのか?

女性にとっての結婚は、家事・育児・介護、改姓、仕事の中断など、現在の生活や将来の収入を変える可能性を伴います。

内閣府の「令和4年版男女共同参画白書」は、2021年度に実施された「人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査」を紹介しています。積極的に結婚したいと思わない理由として、女性は男性よりも「仕事・家事・育児・介護を背負うことになる」「名字・姓が変わるのが嫌・面倒」と答える傾向が高くなっていました。

第16回出生動向基本調査でも、女性が結婚相手の条件として「家事・育児の能力や姿勢」を重視または考慮する割合は、2021年調査で70.2%に達しています。また、女性の理想とするライフコースでは、仕事と子育てを両立する生き方が初めて最多となりました。

若い女性が求めているのは、仕事を辞めて家庭に入ることでも、仕事と家庭を一人で両立することでもありません。働き続けながら、家事と育児を相手と分け合える生活への期待が強まっていると考えられます。

結婚後に予想される負担には、次のようなものがあります。

  • 家事や育児が一方に偏る可能性
  • 妊娠や出産による休職と収入減少
  • 配偶者の転勤に伴う退職や転職
  • 改姓に必要な職場・金融機関などでの手続き
  • 双方の親の介護や親族付き合い

これらは結婚する日に一度だけ発生する費用ではなく、その後の人生やキャリアに影響する問題です。女性が慎重になることを「結婚への夢がなくなった」と捉えるだけでは、判断の背景にある現実的なリスクを見落とします。

「適当な相手がいない」とは何を意味するのか?

出会いの不足とは、単に知り合う人数が少ないことではなく、一緒に生活できる条件を満たす相手との関係を築きにくいことです。

第16回出生動向基本調査では、結婚意思のある25~34歳の未婚者が独身でいる理由として、「適当な相手にまだめぐり会わないから」が最も多く、男性43.3%、女性48.1%でした。また、18~34歳の未婚者のおよそ3人に1人は、異性との交際を望んでいませんでした。

「適当な相手」という言葉には、好みや性格だけでなく、仕事、収入、居住地、家事分担、子どもを望むかどうかといった生活条件も含まれます。結婚後の暮らしを具体的に想像するほど、確認しなければならない条件は増えていきます。

出会いの数より関係を育てる余裕が問われる

職場と自宅を往復し、休日は疲労の回復に充てる生活では、新しい人に会う機会があっても関係を育てる余裕がありません。相手探しの手段だけを増やしても、時間と経済面の不安が残れば、結婚まで進みにくい状況は変わらないでしょう。

交際を望まないという回答も、恋愛への関心が完全に失われたことを意味するとは限りません。傷つく可能性や費用、時間、将来責任まで考えた結果として、最初から参加しない方が合理的だと判断している可能性もあります。

結婚支援に必要なのは選択肢を増やす政策である

必要なのは結婚を勧めることではなく、結婚したい人が経済的不安や性別役割によって断念せずに済む環境をつくることです。

自治体の婚活イベントや出会いの支援は、一部の人にとって有効な入口になります。しかし、雇用、所得、住居、長時間労働、家事・育児の偏りが変わらなければ、出会った後に結婚生活を組み立てられません。

求められる支援は、三つの段階に分けて考える必要があります。

  • 入口の支援:自然に人と知り合い、関係を築ける場を増やす
  • 生活の支援:安定した雇用、所得、住居を確保しやすくする
  • 継続の支援:家事・育児の分担、柔軟な働き方、休業制度を実効的なものにする

同時に、結婚しない生き方を不完全な人生のように扱わないことも重要です。結婚を選ばない自由が認められてこそ、結婚したいという意思も周囲に押された結果ではなく、本人の選択として尊重されます。

少子化対策を理由に結婚を促しすぎれば、若者は自分たちが人口維持の手段として扱われていると感じかねません。政策が向き合うべきなのは、価値観の矯正ではなく、希望と現実の間にある障害です。

まとめ

若者の非婚化は、「自由を求めて結婚しない」という価値観だけでも、「お金がないから結婚できない」という経済問題だけでも説明できません。独身生活の自由が魅力を増す一方で、雇用や住居への不安、家事・育児の負担、相手との生活条件が結婚の判断を難しくしています。

この記事の要点は、次のように整理できます。

  • 結婚意思を持つ若者はいまも多数派である
  • 経済的不安は結婚だけでなく交際の段階にも影響する
  • 独身生活の自由は若者にとって現実的な価値を持つ
  • 女性は結婚後の家事・育児やキャリアへの影響を慎重に見ている
  • 支援すべきなのは結婚そのものではなく、希望を妨げる条件である

問うべきなのは、若者が「結婚しないのか、できないのか」という二者択一ではありません。結婚してもしなくても不利益を受けず、自分の望む家族や生活を選べるのかという問いこそ、これからの社会に必要な視点です。

主な参考資料

  • 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」2021年調査、2022年公表
  • 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査報告書 第Ⅰ部 独身者調査の結果」2023年刊行
  • 内閣府「令和5年度 年次経済財政報告」第2章第2節「少子化と家計経済」2023年
  • 内閣府「令和4年版 男女共同参画白書」特集「人生100年時代における結婚と家族」2022年
  • 厚生労働省「令和7年(2025)人口動態統計月報年計(概数)の概況」2026年公表